それぞれの戦い
まとまらなそうに見えますが、今月中には完結させる予定です。
そもそも、最初にナーディアートを狙ったのだって、彼女がいることを把握していたからだ。
最初にジルを狙っては、間違いなくそのストーカーさんに邪魔されていた。
そうなってはナーディアートとジルの二人を相手取ることになっていただろう。
もちろん、カシェルとお互い協力し合えば、それも可能だったかもしれない。
しかし姿を隠していようともいずれバレてしまっていただろう俺と共に行動し続けるよりかは、ここで俺が一人でジルの相手をし、カシェルはカシェルで別行動を取って姿を晒さないようにした方が、カシェルにとっても何かと都合が良いはずだ。
それに何より、俺とカシェルは一度も連携を取ったことがない。
対してジルとナーディアートは練習をしていないとは言い切れない。
もしここで二人が個別戦闘ではなく連携を取った戦闘を選択してきた場合、俺達に勝ち目は無くなってしまっていただろう。
だから一人を確実に減らす選択肢を取った。
そして代わりに……ストーカーとの戦いを、二対一へと、持ち込んでもらった。
「っ!」
俺とジルが話をしている間にも、カシェルが二階席へと移動を果たす。
……ジルが俺へと槍の穂先を向けてきた際、マリンはすぐ様行動に移っていた。
場所を移動し、適切な援護を行うための準備をしてくれていた。
だがそれは、俺までもジルへと剣を抜き放った段階で切り替わった。
その瞬間、二階席のある一部から、殺気が膨れ上がった。
同時、マリンの狙いもジルではなく、その殺気の元へと切り替わる。
その殺気を放った本体は、すぐさまソレを消して気配を消しに掛かったが、それでも警戒を解くわけにはいかない。
何故ならそれは、俺とジルの戦いが始まった際、厄介になることが分かりきっているからだ。
矢を放ち、次の矢を放つ場所を見定め、移動しながら矢を番えている間……その殺気の持ち主がソレを放つまで、その気配に気付けなかったのだ。
そんな奴が援護に回られては、マリンでは対処が出来ない。
ギリギリまで気配に気付けず、殺気を放って隠した後もすぐに場所を特定できず、気配を消したまま移動されても見つけられない、隠密機動に優れた相手。
……魔法でただ魔力を消しているだけのマリンやカシェル・ナーディアートやジルとは違う。
人間が発するあらゆる気配――視線・臭気・足音・歩く際の空気を裂く音・存在するだけで変質する質量……そういったもの全てが、消されている。
最早「暗殺者」と言っても過言ではない、存在感の消失。
おそらくは「剣騎士科」で選べる「選択授業」のようなもので、「斥候技術」を選んだが故に可能な能力。
大きな動きをする直前まで気付け無かったマリンが、一人で抑え込めるはずがない。
……もし先にジルを倒そうとしてしまっていれば、その時点で、おそらく俺達は負けていた。
それ程までに、ジルを慕うストーカーである彼女の技量は高い。
少しだけ話をしたことがある俺ですらも、彼女の正体を掴めなかった。
そんな彼女でも、さすがにマリンとカシェルの二人を相手にして、こちらにまで援護に回れる訳がない。
マリンが遠距離から気配を探し、カシェルが直接歩き回り気配を探る。
どちらかを無力化しようと動いたその瞬間、気配は膨れ上がってしまい場所が特定される。
故にストーカーからしてみれば、倒す機会は一瞬しか無い。
しかも一撃で仕留めなければならない。
だがそれをカシェルが許すはずがないし、さすがのマリンも近づかれればその気配に気付くだろう。
人が苦手だからこそ分かるものがあるのかもしれない。
そうして……二人が彼女の足止めを静かに――傍から見れば何もしていないように見える中攻防してくれているおかげで、俺はその戦いに集中することが出来、結果リフィアに身体を預けることが出来ていた。
――が、その均衡は崩れた。
リフィアがジルの背中を突き刺したその瞬間――殺気が膨れ上がった。
「「っ!」」
すぐさまマリンがそちらへと狙いを定め――た同時に撃ち、カシェルが槍を構えて走り出す。
「っ!」
早撃ちされた矢を躱す。
躱すことによる気配の動きをそのまま維持させるため、さらにマリンが次々と矢を放つ。
その隙に、カシェルがその間合いを詰め……槍を振るった。
――その攻撃を、キィン! と金属音を響かせ、素手で受け止める。
……いや、この距離からでは見えないだけで、腕に何かを嵌めているのか……!
鉄甲なのかメリケンサックのようなものなのか、それは夜の闇に紛れて全く見えない。
しかし、槍を弾く金属音を響かせるなんて、何かしらの装備をしていることに他ならない。
「くっ……!」
槍を弾くと同時、一気に間合いを詰め、カシェルへと迫る。
俺では一苦労した槍の内側への飛び込みを、あっさりと行ってのけた。
なんて身のこなしの軽さだ。
このままではカシェルが一撃で無力化されてしまう……なんて懸念は、すぐに霧散する。
己の身体を基点に弾き飛ばされた槍を回し、身体の周りを走らせる。
ただ闇雲に振り回しているように見えながらも、近付く者全てを寄せ付けないと誇示するかのような、そんな動き。
マンガなどで見たことがある「棒術」のようなだ。
アレを所々に魔法の力場を発生させ行い、槍による近い間合いという弱点を克服している。
……いや、元々あの棒術めいたものが、カシェルの戦い方なのか。
二階席、という例えの通り、あそこは上に行けば行くほど見えやすいようにと、段差が設けられている。
その狭い足場でも槍を振り回せるなんてのは、ただ防御のために身に着けた程度では行えない。
槍を持ちながらも短剣の間合いであろうとも対処ができる。
それがきっと、カシェルの槍の持ち味だ。
……改めて、先にナーディアートを片付けて良かった。
あんな独特な戦い方、もし同じ学科のジルに見られたら、一発でカシェルだと見抜かれていただろう。
偶然とは言え、この結果は大きかった。
――そう、安堵すると同時……校舎を挟んだ反対側にある修練場に、強風が巻き上がるような音が上がり……。
それに気を取られないようにしようとした次の瞬間には――校舎越しでも分かるぐらいの強い光が、発生してきた。




