対峙する相手
昨日は体調不良とはいえ、宣言もせずお休みしてしまい申し訳ありませんでした。
本日・翌日は予定通り更新できるよう頑張らせていただきます。
立ち止まることなく、歩き続ける。
足音も消して、マリンと並んで静かに歩いて行く。
そして、訓練場へと続く道に差し掛かった時に、俺達と同じで目と口元を隠したカシェルとララの二人と合流する。
皆、全員が無言。
会話を交わすという行為自体が気配を発することになる。
だから誰も、何の言葉も発さない。
「「……遮断」」
と、訓練場の二階席との分かれ道に差し掛かったところで、二人の声が重なる。
マリンとララ、二人の声。
魔法を使った証の力ある言葉。
意識しなければ姿すら見えなくなる、気配遮断の魔法。
無意味に発散している魔力を抑え込むため、魔傷石の妨害に引っ掛からない、隠密行動において便利でしか無いソレを、その二人だけが使用する。
そしてマリンだけが、上の階へ。
俺達三人はそのまま進み続ける。
マリンだけが上に行ったのは、彼女が狙撃手としての役目を担っているから。
魔法で姿と気配を消し、相手を遠距離から屠るために待機してくれる。
そしてララだけが使っているのは、彼女が見つかってはいけない存在だからだ。
知識の塊たる魔法を入れ替わっているが故に使えない俺と、使えるけれど敢えて使わないカシェル。
こうして魔法で気配を消さない二人と行動することで、魔法を使っているララをより目立たなくさせようという寸法だ。
だからといって、カシェルもまた何もしていない訳ではない。
探査魔法。
とはいえ、もし姿を隠す魔法を使われていては、結局は見つけられない。
探査魔法と言っても、魔力を元に相手を見つけるものだからだ。
その魔力を抑える気配遮断の魔法は、この探査魔法では引っ掛からない。
それでも、もし相手が気配遮断の魔法を使っていなければ、見つけることは出来る。
カシェルはその魔法を、俺達と合流する前から使ってくれていた。
「…………」
訓練場の入口へと差し掛かる。
三人共がマリンに借りた布で目元を隠しているため、全員がその表情を見ることは出来ない。
しかしそれでも、それぞれが顔を合わせ、頷きを返す。
そして俺を先頭に一歩、その陸上競技場ほどの広さがある場所へと、足を踏み入れた。
「…………っ!」
――瞬間、手を横に突き出して、後続二人の足を止めさせる。
……人の気配があった場合してもらうはずだった、カシェルの合図はない。
しかし間違いなく、この広く、風の音しかしない夜空の下に、人の気配が存在している。
それを本能が――身体が、告げてきた。
「……どうかした?」
耳元に囁かれるように聞こえるカシェルの声。
探査魔法を切断し、こちらに声を届かせる魔法を使ったのだろう。
しかしやっぱり、魔法が使えない以上、こちらから返事をすることは出来ない。
「…………」
だから、事前の打ち合わせ通りの指先での指示を出し、さらにその気配を探る。
打ち合わせの時にマリンが言ってくれていた通りだ。
言葉のやり取りが出来ない状況で役に立つと言ってくれていた。
ネガティブ思考を本人は嫌がっていたが、使いところによってはやはり便利だ。
そうして隅々まで見て、感じようとする。
もちろん、真上までも探る。
しかし、そうして捜索しようとも、何も感じない。
“俺では、何も感じない”。
切り替える。
朝の訓練時間、リフィアの動きを見せてもらう時のように。
己を消して、力を抜いて、意識を落として……身体だけに、意識を向ける。
勝手に動こうとも、俺自身がその動きに意識を向けないようにする。
……それでももちろん、十全にリフィアの動きが発生するわけではない。
本能だからこそ咄嗟に。
俺自身が俺の意識を落とそうとしても、そこには“落とそうとする意識”が存在してしまう。
本能が十全で発揮する時というのは、俺が何も反応できない時だ。
そう……正にこうして、“余計なことを考え過ぎている間に何かしたりされたりとか”、だ。
「っ!」
すぐさま、身体が告げた敵の位置を、指先で示す。
それをカシェルが、通信魔法でマリンへと告げる。
その間に、ララにはこの場から離れるよう指示を送る。
頷き、その場から離れるララを見送ったところで――
――俺は目と口元の布を取り払い、一気に駆け出した。
「っ!」
カシェルの動揺を背に、姿勢を低くして走っていく。
マリンが矢を放つ場所へと、一直線に。
既に俺の意識が乗っ取っているせいで、相手の気配は全く分からなくなっている。
しかし、そこにいるのは間違いない。
俺が意識を向けている。
気配遮断の魔法であろうとも、移動しようとすれば姿が見える。
あくまでも溢れる魔力を消して・意識を逸らすだけの魔法だからだ。
その逸らされる意識をずっと、そこに向け続けていれば、移動しようとしたその姿を捉えることは出来る……!
「…………」
別の方向から動揺の気配が伝わってくる。
でも、そんなものは無視だ。
マリンが矢を放つだろう、その場所へと……一目散に掛けていく。
掛けながら……差してある剣を、腰から外す。
「っ!」
その気配が立ち上がる――瞬間に、マリンの矢が放たれた。
「ぐおっ!」
魔力を乗せ、飛距離と威力を上げたその矢を――男は右肩に受ける。
間違いなく心臓を狙っただろう一撃を、身を捻ってその位置にしたのだ。
避けきれなかったとは言え、中々の腕前だろう。
……尤も、そこまでだが。
「……ふっ」
ジャリ、と低い姿勢のまま、鞘ごと抜き放った剣を振るう。
右肩の矢を防御するために、その箇所へと防御魔法を展開するよう意識を向けてしまっているその隙に、次の防御時点へと反応できないコンマ以下の秒数で――その後頭部を、逆手に持ったままの鞘の先端たる鐺で打ち付けた。
「がっ……!」
遠心力を乗せたその攻撃で、敵は倒れる。
……いや、敵じゃない。
そこに倒れ気絶しているのは、ナーディアートなのだから。
俺が布を脱ぎ捨て顔を見せたのだって、向こうが俺のことを知っているからだ。
まさかここに俺が現れる訳がない――もしくは、本当に俺が現れたという驚きで、その動きを鈍らせるのが狙いだったのだ。
……と、もう一つの気配が動き、こちらに姿見せる。
星空のもとに現れたその姿は……ジグゼイル。
見事、俺の顔見知り二人だ。
「……姿を見せた、ってことは、事情を説明してくれるんだろうな、ジル」
剣を再び腰に差しながらの言葉に、
「……それはこちらのセリフだよ、リフィア」
彼は、槍の穂先をこちらに向け、敵対する意志を見せ、言葉を返してきた。




