作戦の話し合い
今日も今日とて休み返上のために長めです。
そして明日はお休みします……またで申し訳ないです。
ただ体調不良ではないので、明後日には普通に更新するつもりです。
いや……その前に。
「マリン」
「えっ! あ、なに?」
「ずっとボーッとしてるけど、ララちゃんに挨拶したら?」
「あ、う、うん……そうだね」
俺の提案に何故か声を強張らせるマリン。
……いや、何故か、じゃないか。
もうあそこまでいくと分かりやすい。
「ん? 誰や、アンタ」
「えと……マリンって言うの。よろしく、ララちゃん」
「お~、カシェーの言っとったもう一人の協力者か。こちらこそ、よろしくな」
俺を相手にした時とは違い、明るい表情でその小さな手を差し出し――
「えっと……マリー、って呼んで大丈夫か?」
――そうして舌っ足らずなのかあだ名なのかよく分からない名前の呼び方をした所で……マリンの中の何かが切れる音が聞こえた……気がした。
「…………」
「……ん? なんや、マリ――」
「ああもう! かっわいい!」
「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……!」
今までの大人しいマリンから出るとは思えないトロけたような声を上げ、手を差し出していたララをそのままガバりと飲み込むかのように抱きしめた。
ララが本当に小柄だからこそ、平均的な身長しか無いマリンでもああして抱え込むことが出来るのだろう。
「あ~……分かる。分かるわ~、それ」
カシェルも腕を組んでうんうんと頷いている。
俺も同意見だ。
なんだろうなぁ……ああした小さい子を可愛いと思うのって、もう女としての本能なのかも。
身体にすら備わっている母性的なアレかもしれない。
「可愛い~……可愛いよぉ~……」
全力で抱きしめ少し身体を丸め、そのモフモフに膨れ上がった髪の毛に顔を埋めてスリスリしている。
もう顔からしてトロけきっている。
「ああもう! なんや急にっ! っていうかなんやこの邪魔な塊はっ!」
と、度々その塊から逃れるようにしながら、迷惑そうな顔を覗かせるララ。
ちなみにだけど、その塊とはマリンの胸のことである。
ああして小さな子を抱きしめるとよりその大きさが強調される。
π(パイ)スラッシュされた胸とかもあんな感じだった。
なんかちょっと前、男共に触られそうになっていたが……その辺の気持ちも分かる。
って、そうじゃなくて――
「――じゃあ、自己紹介も済んで、話もまとまったところで、早速話を進めようと思うんだけど」
「っていやいや! ララのこの状況は無視かいっ!」
はい。
時間がないので話を進めます。
◇ ◇ ◇
「魔傷石のチェック……」
「多分、ジル以外の貴族も何人か親に言われてチェックさせられてると思う」
今日ジルと行ったことも、自分が呼び出された理由が魔族の侵入目的の探索だということも……マリンに話したことの全てを、カシェルとララの二人にも話した。
「直接戦ったってことになってる私を連れていけば、何かしら分かるって踏んだんだと思う。尤も、中身が違うからこちらも何も分からないんだけどね」
なんて言いながら、チラりとララを様子を窺う。
後ろからマリンに抱きつかれてることは既に諦め始めているのか、何事も無い表情で話に参加している。
本当に小動物感というか、マスコットキャラ感が強くなってる。
「……で、今日中におそらくナーディアート様が、彼の担当部分である魔傷石を調べる、と……」
「修練場奥の森の中らしいから、明日にでも彼を問い詰めて、魔傷石が壊れていたかどうかこちらも把握してから動こうかとも思ってた……んだけど……」
ここまでは、マリンに話した提案と同じだ。
しかしあの時とは、微妙に事情が違っている。
「でも、どこかしらの魔傷石が壊れてることは、間違い無いんだよね? ララちゃん」
「……なんでそう思うん?」
「だって、リフィアの中に“俺”が入っているのは、その侵入してきた魔族の魔法である可能性が高いんだよね?」
というか、もしそうでなかったとしても、魔傷石の影響下で使える魔法の限度を超えているのはほぼ間違いない。
常に魔力の栓を開け続けることが出来たリフィアなら、別世界との人格入れ替わりを対価に強い魔法を使えてもおかしくはないだろうが、それは少なくとも攻撃魔法ではないし――もしそうなら人間が攻撃魔法を使えるようになったということになり、とっくに戦争の話が出てきているはずだ――、魔族を倒せるような力を得られる類だとしたら魔傷石が機能していたはずだ。
だが機能せず、その魔法が使えたとなれば……破壊は間違いない。
つまりリフィアの中に俺が入っているということ自体が、魔傷石の破壊が完了しているという、何よりの証左なのだ。
「だとしたら、魔傷石の破壊がされているかどうかの確認を待つ必要性もあまり無い気がするんだよねぇ……」
「あ! そうか……!」
カシェルは俺の言いたいことをすぐに察してくれたようだった。
「ん? どういうことや?」
「つまり、魔傷石が破壊されていることが間違いないなら、訓練場で無理に帰還用の魔法起動させようとする必要も無いってことだよ」
魔法を起動させることが出来る場所がもう一箇所ある。
それだけで作戦の幅は大きく広がるのだ。
「あれ? でも……」
と、ララを抱きしめたままのマリンが、ふと何かに気付く。
「その、リフィアさんと敵が戦った場所って……誰か知ってる?」
「それは……」
俺は入れ替わる前の出来事だから知らないが……噂話に詳しいカシェルなら。
「……そう言えば、噂話にそこまでの内容が無かったかも……」
俺の視線を受け、今頃気づいたことのように呟きを漏らす。
「そうか……魔物と戦った、という噂だけが大きくなりすぎてて、場所までは広まって無かったんだ……」
見出しだけがデカくなり、中身まで行き届いていないということか。
……というかコレ、ちょっと異常じゃないか? いくらなんでも、自分たちの校舎が戦場になっていれば、戦いの音とかで場所ぐらいは特定されそうなものだが……。
誰も場所について話をせず、そのことに違和感を持たず、戦いが行われていたことすらも後で知って広まるなんて……そりゃ、暗殺めいた静けさの中戦いが行われたのなら分からないでもないが……こちとら、どちらが原因かは知らないが、人格が異世界から喚び出される程の魔法を使われているのだ。
どんなことが起きるのか分からないとはいえ、これはあまりにも酷い。
それともこの校舎、壁板は普通の素材に見えるが、魔法による防音設備がスゴかったりするのだろうか……?
「……じゃあ、今日の夜にでも動いた方がエエかもな」
と、カシェルが提案する。
「どうして? 広まってない噂話を探って、もう一つ魔法を使える場所を明確にしたほうが良くない?」
「それは確かにそうかもしれんけど、それで結局場所が見つからんかったら話にならんし。ララとしても正直、時間が無いねん」
「時間が無い?」
「だってほら、同胞が入ってきてやられて、もう結構な時間が経って、こうして魔傷石が無事かどうか調べられてんねんで? そしてその調査が終わったら、次は目的を調べられる。そしたら、中にいるかもしれない同胞に会いに来たのかもしれんってなるやろ?」
「そこで、自分のことがバレてしまうかもしれない、ってこと……?」
「そういうことや」
……まぁ、言いたいことは分かる。
分かるが……。
「そもそも、リフィアが倒したって言う魔族は、本当にどうして学校に侵入なんてして来たの?」
「それは……ララを、助けにや」
「助けに?」
「逃げたい、って話をしてたんや。ほら、遠い人と話をする魔法ぐらいやったら、魔傷石の影響は受けへんやろ? それで、ウチを助けに来てくれたんや」
……なんだろうか……この違和感は。
いや、言っていることに嘘は無い……と思う。
ただどこか……真実を全て言っていないような……そんな引っ掛かりを覚える。
「じゃあララとしては、当初の予定通り、あたし達三人が見張ってる中で、訓練場で魔法を使うってこと?」
でもその引っ掛かりがちゃんと説明できないせいで、上手く指摘も出来ない。
そうこうしている内に、話がどんどんと進んでいく。
「せっかくカシェーが集めてくれたんやし、とりあえずそれを試してみたいな。時間も無いんやし」
しかも、反対する材料も無いときた。
「……じゃあ、一つ条件」
「なんや?」
確かに現状、彼女の立場になって考えれば、少し焦って動きたくなる気持ちも分かる。
分かるからこそ、このまま反対したら、一人で動き出しかねないことも分かる。
だからとりあえず、無謀な行動だけは取らせないよう、制限だけは掛けておく。
「三人で守るのは絶対だけど、帰るための魔法を起動させる前に、誰かに見つかったら……ララちゃんだけでも逃げて、後日に持ち越すってことで」
「……いや、それはあかんやろ。アンタ等三人が怪しまれてまう」
「だとしても、あなたが捕まって、魔族だってバレる方が問題しか無い。三人だけなら誤魔化しが利くから、とりあえずそうなった時、その場にあなたがいなかったってことに出来るようすぐに逃げてくれる。それを約束して欲しい」
「リフィア……」
カシェルがこちらを見て感動しているような素振りを見せるが、こちらとしてもララは、リフィアを元に戻すための唯一に近い手がかりだ。
ここで彼女が魔族とバレ、国に捕まってしまうことの方が辛い。
せめてその最悪だけでも避けるための、自分勝手な約束だ。
「……分かった。それぐらいの条件やったら飲んだる」
不承不承な納得の声を聞いてからすぐ、俺達四人は本当に数分しか無い僅かな時間を使い、今夜の作戦の詰めを始めた。




