魔物ではなく、魔族
再び二話分……というか、三話分の更新。
休んだ分を取り戻すのと、話数を減らすためなのを兼ねて一話で一気に更新です。
そのためいつもより長いです……まあ無駄に冗長な会話があるってことでもあるので読みづらいかも……すいません。
全く意味の分からない言葉で注目を引き、話を聞いてもらう手法がそのまま通じたおかげで、話は滞りなく進んだ。
「……なんや? つまりアンタは、ララの同胞を殺したそのリフィアって子のせいで、今ソイツの身体に入っとるってことか?」
「もしくは、そちらの同胞のせいでこうなったか、だけど。さすがにそこまでは分からないからさ」
……いや、そのことを踏まえたとしても、あまりのもあっさりと納得しすぎな気がする。
カシェルも一緒になって説明してくれたことすらも含めて、だ。
「いや、多分同胞の魔法がそうさせたんちゃうかな」
「ん? それはまたどうして」
「異世界から人を喚び寄せることが出来るんもおるぐらいやし、人格だけ喚び寄せるとか出来んこともないと思うしな」
「なっ……!」
これは……もしかして、かなり重要は情報では……?
「同胞がどういう種族なんかは、ララも教えてもろうてない。ただ逃げるために協力してくれる種族がこちらに来てくれるっちゅう話やったんや。ソイツがそういうこと出来るやつやったんやとしたら、戦ったアンタの身体の奴がその魔法受けて人格すり替えられたんやとしても、まあおかしくはないやろ」
となれば……もしその魔物のせいで入れ替わりが起きたのだとしたら、やはり学校にあるどこかの魔傷石が破壊されていることは間違いない、ということになる。
……いや、もちろんその情報も協力する上では重要だが……!
それ以上に、魔法のおかげでこうなった、と確証を持てることの方が大きい……!
これは身体に人格を戻すのなら、やはり魔法を探るのが正しいと言われたようなものだ。
「……いやでも、むしろそういうのは……」
「え? 何?」
「あ、ううん。何も無い何も無い」
「いや、ちょっとしたことでも気づいたことがあったら教えて欲しい」
手がかりを得られたからか、少し興奮気味に、つい獣耳っ子に詰め寄ってしまう。
「せっかく魔法のせいでこうなったって分かったんだ。魔物について何か――」
「はぁっ!?」
と、急に彼女の顔が怒りに染まった。
「えっ……?」
「誰が魔物や! 誰が!」
その反応の切り替わりに驚く俺に向け、彼女は俺を突き飛ばして距離を取り、再び向こうから詰め寄るようにして人差し指で俺の鳩尾を突きつけながら、その感情の爆発をぶつけてくる。
「ララ達にはちゃんとした種族がある! それを意思疎通の出来ひん魔物と一緒にするやなんて……! これやから人間はっ……!」
「待って待って。落ち着いて、ララ」
「コレが落ち着いてられるかって!」
宥めようとしてくれたカシェルすらも、その怒号によって足を止めさせる。
「結局、コイツも差別する側の人間やっちゅうことやろ!? そんなんに協力されるって言われても、ララは信用できん!」
「いやいやだから、彼女――いや、彼? ……まぁともかく、今リフィアの中には別世界の人が入ってるんだよ? それなのにそんなこといきなり言われても分かってる訳――」
「知らんかったら何言うても許される言うんかっ!?」
その言葉でようやく、自分が彼女に対して失礼な発言をしたのだと理解した。
同時、思考を巡らせ思案する。
何が彼女の怒りを買ったのか。
「大体、知らんねんやったらそんな無遠慮に魔物って言わんのんちゃうん!? 人間を動物や獣言うてんのと同じやでっ!? そんな上から目線の分類別けしてるっちゅうことも気付かん無配慮者っちゅうのは、絶対ロクな奴や無い!」
「……もしかして……」
魔物、という呼び方がダメだったのだろうか……?
「ああん!? なんや!?」
「いや……――」
おそらくそうだ。
そしてそのまま言葉にして訊ねていたら、きっとさらに怒りを買っていた。
……だったら――
「――……まず、知らなかったとはいえ、そういう失礼なことを言って、ごめん」
――まずは素直に、頭を下げる。
彼女の言葉を思い出す。
上から目線の分類別けという言葉。
人間を動物や獣と言うようなもの。
確かに、平然と別種族に向けてそういうことをするのは、上の立場にいる存在だけだろう。
こちらの世界でも、人間がネコ科の動物を見て全てを「ネコ」と呼んでいるのだって、向こうがこちらに反論してこないと分かっているからだ。
食物連鎖の頂点だからこそやっている、上からの身勝手な分類別け。
もし反論出来て、人間と同じ位置で、理解した上で反撃出来たならきっと、こんな彼女のように強く反論してきたかもしれない。
この世界では、人間は頂点ではない。
彼女たちのような、人間じゃない存在もまた、同じ位置に存在している。
きっと“魔物”という言葉は、そんな人間が、相手を自分たちより“下”だと位置づけるために作った、分類別けの言葉。
それだけで差別用語のようなもの。
それは……怒って当然だ。
「そう教わったからって、そう言って良いものだと、勝手に思い込んでた。思考の放棄をしていた。本当に……ごめん」
「謝ったって許したるもんか!」
「こら、ララ!」
「だって! ……っ」
まるで叱りつけるようなカシェルに言い返そうとして、ふと何かを思い出したかのように、言葉をつまらせる。
「……覚えてる? あたしだって最初、ララに同じようなこと言われたの」
「……覚えとるけど……でも、あん時とは状況がちゃうし……」
「リフィアも、今はあの時のあたしと同じように、ララと仲良くなりたいんだって」
「いやいや、そんなんあり得んやろ」
「いや、仲良くなりたい」
ここは口を挟むべき場面だろうと、咄嗟に言葉が口を吐く。
「そして出来れば、正しい知識を蓄えたい。だからララちゃん、あなた達種族のこと、どう呼んだら良い?」
「……分かってるん? アンタ等が魔物って呼んどるララ達は、本当に色んな種族なんやで? ウチなんてドワアース言うんや」
「ドワアース……?」
確かに、今まで聞いたこともない言葉だ。
「言うても分からんやろうけど、ウチ等は動物みたいに交配して生まれるんやない。大地に産み落とされるんや。その中でウチは、『ドワーフ』って呼ばれとるんと『アースエレメンタル』って呼ばれとるんの混血や。だからドワアース」
「あ~……」
「どや? ややこしいやろ? だからカシェルなんかには魔族って言う風に呼んでもろうとるんや。でもアンタは――」
「いや、っていうか……何がややこしいんだ?」
「――って、は?」
むしろ、俺の世界ではあまりにも有名過ぎるファンタジー小説の種族名と一緒で、分かりやす過ぎて戸惑っているぐらいだ。
というか、ちょっとダサくなっていることのほうが覚えづらい感あるんだけど……。
「カシェル、コレって本当にややこしいのか?」
「あ~……まあ、この子だけだったら、そりゃ単純なんだろうけど……魔物って呼んでるののほとんどにそうやって個別の呼び方があるかって思うと……」
「マリンは? ずっと黙ってるけど」
「……………………」
「……マリン?」
「……はっ! ごめん、話聞いて無かった」
「……いや、良いけど……」
なんか胸元で手を組んでずっとボーっとした瞳でララを見ているが……。
……まあ、一段落したら処理してやろう。
なんとなく気持ちは分かる。
「いや、そんな強がらんでええで? 本当はララと仲良くなりたいからって無理してるんやろ?」
「無理はしてない。っていうか、カシェルとかって魔物って枠組みを最初に教えられるから、その枠組みを壊すのに手間取るって話なんだと思う。こちらの世界ではむしろあなた達みたいな子、それこそ無数にある種族を個別個別で覚えてるぐらいだし」
なんだったら、ドワーフ族が主人公の物語だって、俺の世界なら探せばいくらでも見つかるだろう。
「逆に、魔物って呼ばれてるものが全部、そうした種族全てを含めて呼んでいた、ってことに若干驚いてるぐらい」
「いやいや、そんなんエエて」
「じゃあ聞くけど、魔族っていうのはエルフってのも含まれる?」
「な……!」
「含まれるんだ。じゃあケンタウロスとか、アラクネとかスライムとか、ハーピーとか人魚とか、そういうのはいる?」
「な……なんやアンタ! ララ達のこと勉強でもしとんのかっ!?」
「いやだから、こちらの世界では個別個別の認識が当たり前で、それを魔物なんて一括りにすることのほうがおかしいぐらいなんだって」
「嘘やん……え? それって、天国って世界?」
「むしろ地獄って世界の方が近い」
もしかしてだけど、こうした近しい言葉が多いことこそが、俺とリフィアが入れ替わりの対象になった、っていうのと関係があるのかもしれない。
「まあともかく、そういうことなら、これからは魔物だって一括りにはしない。むしろこちらとしてもその方がやりやすい。だから今回の無知は……まあ水に流してくれ、ってのは無理だろうけど……とりあえず、ララちゃんを返すまでは、許しておいて欲しい、ってのは……ダメか?」
「……っ! ふ、ふん! まぁしゃあないな! そこまで知っといて呼んだってことは、本当に知らんかっただけっぽいしな! それで許したるわっ!」
「ツンデレかな?」
「は? なんやその種族名は? そっちの世界だけのんか?」
「まあ、そんなところ」
ともかくコレで、ようやく話を先に進めることができそうだ。




