魔傷石の存在
今日ちょっと体調悪い……。
申し訳ないですが、明日はちょっとお休みします……本当に申し訳ない。
どこから校内へと侵入したのか……。
思えばどうして、そのことを疑問に感じなかったのか。
ずっと、魔物という存在と、その脅威の存在と戦ったという噂と、勝ったからこうなったという現状だけを考えてきてしまっていたせい……なのだろう。
もし噂話が本当なら、侵入経路は確かに把握しておかなければいけなかった。
「ただもし、この部屋にある魔傷石が傷ついてたら、色々と考えないといけなくなるけどね」
「それは……」
何故、と問う前に、解錠される軽い男が響いた。
「結構古いから錆びついてて、時間が掛かるんだよね」
そう言って見せた苦笑いは、果たしてカギの錆つきなのかそれ以外なのか。
それ以外……とは、言うまでもない。
地下からの侵入ということは、地下で魔法が使えたということ。
そして魔法が使えるということは、魔傷石が破壊されているということ。
それはつまり……生徒の誰かが魔物を入れる手引をした、ということに他ならない。
何故、と問いそうになった答えが、コレだ。
そしてその答えは同時に、ある考えを俺の中に抱かせる。
もし本当に誰かが手引したというのなら、カシェルの友人たる魔物が一番怪しいということにならないだろうか?
逃げるために転送用の魔法の準備をしていたと、カシェルは言っていた。
もしその練習をした時に魔物を呼んでしまったのなら……片道ではなく、往復できる道を作ってしまい、喚び込んでしまったのなら……。
最悪……彼女が意図して、凶暴な魔物を喚んでしまったのなら……。
色々な考えが頭の中を巡る中、扉を開けて中へと入るジルに続く。
まず感じたのは埃っぽさだった。
次に気付いたのは薄暗さ。
開けたドアから入る僅かな明かりしか、そこの空間には光源が存在しない。
夜に訪れたならきっと何も見えなかっただろう。
「ちょっと待ってね」
そう言って明かりの魔法を使い、足元を照らしてくれる。
魔傷石の近くであろうと遠かろうと、簡単な魔法なら関係ないのだろう。
そうして見えた部屋の中は、再び続く下り階段だった。
たださっきまでのように、踊り場を介してさらに降りるような階段ではなく……踊り場に当たる位置にはちょっとした道が存在しており、曲がったその先の小さな隙間に、例の魔傷石が存在しているようだった。
「どうせなら、リフィアも見てみる?」
「じゃあ、せっかくだし」
と言って、先に降り辿り着いていたジルを追い抜き、右を向く。
あったのは、蒼く輝く小さな石。
それが大仰に見える祭壇に飾られていた。
ただその石が、本当に小さい。
祭壇が大きいから小さく見えるのではなく、正真正銘小さいのだ。
おそらくリフィアが履いているスカートのポケットへ隠せるぐらいのサイズだろう。
「……ねえジル。当たり前のようなことを聞くみたいで悪いんだけど、これでどれぐらいの範囲の魔法を防げるんだっけ?」
「これで……まあ、この石を中心に、校舎の屋上よりも少し高い位置までをドーム状に覆えるぐらいかな」
「この小ささでっ!?」
狭い空間に、俺の驚きの声が思いっきり反響する。
思わず自分の声に耳を塞ぎそうになったが、ついそうしてしまうほど驚いたのだから仕方がない。
そりゃ、魔法を使えても魔物が戦いに負ける訳だ。
「とは言っても、大きい小さいはあまり関係が無いけどね。リフィアなら習ったかもしれないけど、重要なのは重さだから」
「重さ……ちょっと、持ち上げてみても良い?」
「良いけど、多分女の子の力じゃ持ち上がらないよ」
そんな言葉を背に受け、摘むように持ち上げ――ようとして、本当に持ち上がらなかった。
こんな細い腕でも、剣を振り回せるほどの腕力がリフィアにはある。
つまり元の世界の俺よりも力が強いはずである。
それなのに……持ち上がらない。
一瞬、この大仰な祭壇に貼り付いてあって、この祭壇を含めた全てが魔傷石なのかとも思ったが、僅かに石と祭壇が離れているような感覚も腕に伝わってくる。
本気で全体重を掛けて後ろへと引っ張れば持ち上がりそうなそんな気配……とでも言えば良いのか。
学校にあったサッカーゴールだって、到底一人では無理なのが分かっていようとも、持ち上げようとしてみれば少しだけ持ち上がりそうな気配が伝わってくる。
言ってしまえばそんな感じだ。
「確かに……これは持ち上がらないな」
「だろ?」
なんて言いながら、ヒョイッと、握るようにでありながらも軽々と持ち上げてみせるジル。
「……いや、力持ちだね。ジルって」
「格好つけてるだけさ。本当はいっぱいいっぱいだよ」
イケメンスマイルを浮かべながら言われても、説得力がない。
腕が震えている気配もないし、本当に余裕で持ち上げているようにも見える。
「うん、異常は無いようだね」
上下左右、手の中で転がしたりしてあらゆる角度からその小さな魔傷石を見つめている。
それだけでチェックを終えたのか、その一言を呟いてすぐ、彼は石を元の場所へと戻した。




