魔傷石の場所へ
「ありがとうリフィア。引き受けてくれて」
「まあ、面倒くさいってのは口だけの冗談みたいなものだしね」
嘘だ。実際は本当に面倒くさい。
もしカシェルの頼みを引き受けていなければ来なかったことは間違いない。
「それで、魔傷石のチェックってどこの魔傷石をチェックするの?」
何やら複数あるみたいな言い方してたし、きっとこの学校にもいくつかあるはずだ。
「もしかしてジルが一人で全部チェックするの?」
「まさか。僕がチェックするよう頼まれたのは、上級生宿舎の地下にあるやつだよ」
「地下?」
「ああ、そうか。貴族以外には場所は知らされていないからね」
「え? それってもしかして、また余計なことに巻き込まれてない……?」
「ははは……いやいや、そんなことはないよ……」
「正直者のジルらしい反応、ありがとう」
目を逸らされたところを見るに、どうやらちょっとヤバい模様。
「まあでも、リフィア以外にも知ってる人は知ってるし」
「知ってる人?」
「付いてきてる子」
ああ……あの魔法で姿と気配を隠すジルをストーカーしてる子。
今は何も感じないし見えやしないが、何かジルから好意を示すようなことを言う――もしくはこちらからジルにちょっかいを出した瞬間、間違いなく殺気を飛ばしてくるだろう。
「僕のことをどれぐらいから見守ってくれてるのか分からないけれど、あの魔傷石の場所を父に頼まれて見に行くのは、上級生になってからで数えても三回目だから、あの子もとっくに場所を知っているはずだ」
「……それもそれで問題あるんじゃない?」
なんか話の流れだと、場所がバレちゃいけないみたいな空気を感じるけど。
「というか前からの疑問なんだけど、どうして魔傷石のチェックって教師が行わないの?」
本当は今朝抱いた疑問だが、そこはご愛嬌。
「校内なんだから、先生がすれば生徒の――というか貴族たちにとっては自分の子供の負担が軽減されるのに、どうしてわざわざ」
「あれ? リフィアはその辺の話を聞いたことが無いのか?」
「……うん。実は」
知っておかなければおかしいことなのかと少しヒヤりとしたが、思えばマリンが説明しなかったのだから、平民なら知らなくてもおかしくはないはずだ。
「じゃあそろそろ着いちゃうから簡単に説明するけど」
そう言って、今まで気にはなっていたが進むことはなかった、地下へと続く階段を降りていく。
「魔傷石のチェックというのは、基本的に貴族が行う仕事なんだ。もちろん、その方法は家によって千差万別だけど。僕たちヴェイルロイド家は当主本人がするよう決めているが、家によっては使用人や信頼する部下に頼む所もある」
要は掃除業者のように、一括してどこかの業者に託すようなことはしていない、とそういうことか。
「そもそも魔傷石というのは、魔物との戦争の折に作られた、人間が魔物と戦う上で必須な装置だ」
これは、さすがに予測が出来ていた。魔法を封じる石と聞いた段階から。
「だからこそこの管理は、民を守る貴族が行うべきだろうということで、校内の魔傷石もまた我々が行うことになっている」
校内の、ということは、もちろん街にもあるのだろう。
ただそればっかりはさすがに常識の範疇に収まりそうなので、訊ねるような真似はしないが。
「ただこの騎士学校は、貴族全員が出資して存在している場所だ。故に、誰の管理下でもない。そのため学内にある魔傷石は全ての貴族が把握し、どの家の子供にどの魔傷石をチェックさせるのかを決めている。将来を見据えた予行練習みたいなものだね」
そう聞けばまあ、ジル達に貴族の生徒に託す意味も理解できる。
それにしたって、学校側から依頼しない理由は分からないが。
「今回の調査はおそらく、校内に魔物が入ってきたという噂が父の耳にも入ったからだろう」
「なるほど……それで調査って訳ね」
そして、俺を連れて来たがった理由も理解した。
その魔物と戦った当事者を連れて行けば何か見つかるかもしれない、と考えたのだろう。
「でもそれなら、地下なんて調べても仕方ないんじゃない?」
たどり着いた扉の鍵を開け始めるジルの背中を見守りつつ、純粋な疑問を口にする。
「だって戦ったのは外なわけだし」
これは事前に噂話の域を出ていない話を知っているマリンに聞いていたから分かっている。
「さすがに地下には何もないでしょ」
「そうとは限らない。もしかしたら地下の魔傷石を壊し、魔法を使えるようにしてから地上に出てきた可能性もある。そもそも戦ったリフィアは疑問に思わなかったのか?」
「……何を?」
「その魔物が、どこから校内へと侵入したのかを、だ」




