魔傷石とは
「ねえマリン。魔傷石ってなに?」
いつも通りマリンと二人、隅っこの席に座り朝食を摂りながらさっきジルに言われて分からなかった単語を訊ねる。
「さっき当たり前のように使われたから知らないってことに出来なかったんだけど、何のことやらさっぱりで」
「さっきと言うと……ジグゼイル様に?」
「うん。なんでも、その魔傷石ってのをこの後一緒に見回ってほしいんだって」
「くっ……! リフィアをデートに誘うなんて……!」
「いやコレデートになるの?」
パンを強く握りしめペタンコにしながら悔しがっているが、それは少し論点がズレているように思う。
「それよりも、魔傷石ってのはなに?」
「ジグゼイル様に誘われたことにご満悦でデートに失敗しないために情報収集って訳か……」
「中身男だからね?」
「……同性愛か……!」
「違うからさっさと話してくれない?」
全く……リフィアのことだからって。
今は中身が俺なんだから気にするだけ無駄なのに……。
「大体、そんなに不安なら付いて来る? 多分彼のことだから拒絶はしてこないと思うけど」
「あんなオーラ漂う人と一緒に行動なんてしたら存在感の薄いわたしは間違いなく消える」
「マリンって人魚か何か?」
人に見られたら泡飛沫になっちゃう的なやつなのだろうか。
「ともかく、魔傷石だから」
「……まあ、ついて行けない以上は、ある程度説明しとかなきゃだしね……」
圧縮し固くしたパンを一口分千切って口の中へと入れ、何度も咀嚼し食べきって話を仕切り直す。
その際、周りの喧騒に紛れて会話を聞かれぬよう、声を潜めてから話し始めてくれた。
「魔傷石っていうのは、簡単に言うと魔法を封じる石みたいなものです」
「魔法を封じる? そんなものがこの学校にあるの? ……って、ん?」
それっておかしくないか?
「リフィアの考えてることは分かる。それなのにどうして魔法が使えてるのかってことでしょ?」
「もちろん。夜だって明かりを点ける魔法をマリンが使ってくれてたし、普通に自主訓練でも強化の魔法を使ってたし」
「それは、訓練場は魔傷石の範囲に含まれていないから」
「じゃあ、部屋の明かりは? 部屋も範囲に含まれてないの?」
「部屋は範囲に含まれてる。含まれてないのは訓練場だけ」
「は? じゃあどういうこと?」
「明かりを点けたりとかの魔法は、溢れ出る魔力で使ってる魔法だから」
意味がわからない。
「今のリフィアは知識が無いから魔法が意図して使えない……だったっけ。それにリフィアさん自身が魔力の栓を開け続けてる状態だもんね……。……えっと、普通の人は、魔法を使うために二種類の方法を取ってるの」
「確か……それは聞いたような気がする」
魔力は常に栓をされたように封じられている。
魔法を使うためにはまずその栓を開けなければならない。
しかし明かりを点ける程度の簡単な魔法なら、その必要はなく使える。
なるほど……どうして必要ないのか、という説明をその時聞かなかったが、それが“溢れ出る魔力”ということだろう。
「だったら話は簡単で、魔傷石で封じれる魔法は、強い魔法だけだからなの。それこそ人間だと、魔力の栓を開けなければ使えない魔法とかね」
「なるほど……」
弱いものは防御する必要がないから防御されないってことか。
溢れ出てる魔力なんかで発動できる軽い魔法なんて防御する価値もない、と。
「……………………ん?」
校内の魔傷石のチェック……だよな?
それをどうしてジルの親が指示してくるんだ?
普通指示してくるなら校内の教師とかじゃないのか?
あれ……?
何か……何か繋がりそうな感じが……。
「何か疑問でもあった?」
「あ、ああ……いや、ううん」
食事の手が止まっている俺を訝しみかけてくれたマリンの声に、思考が切断された。
「ただまあ、受ける必要なんて無いかなぁ、と思って」
だからつい、てきとうなことを言ってしまった。
「そう?」
「え? なんで?」
思わぬ返事に疑問が自然と口をつく。
だってさっき一緒に行って欲しくなさそうだったのに。
何故いきなり一緒に行く方が良い派になったのか。
「いやだって、カシェル様に協力するんだよね? その方法が……その、使うんでしょ?」
さすがに言葉を濁したが、“使う”とは「未だ見ぬ魔物が使う魔法」のことだろう。
「だったら、その範囲を知っておいたら何かと便利じゃない? 多分知らないと、訓練場でしかソレを使えない訳だし」
「あっ!」
自分の中に湧いた思考に囚われ忘れてしまっていたことを指摘され、間抜けにも大きな声を上げてしまった。




