魔物のこと
「最初は、見張りを頼むつもりだったの」
倒れ眠ってしまったマリンをしっかりとベッドの中に入れて布団をかけ、ようやくカシェルの話が始まった。
「見張り? 逃がすんじゃなかったのか?」
「逃がす、って言っても、学校から出す方法なんて無いでしょ?」
「それを一緒に探してほしいとか、そういう頼みごとかと」
「それだと、生徒の手に余るって」
「いや、見張りが必要なことも生徒の手には余ると思うけど……」
にしても、見張りか……。
「……なんでまた見張り?」
「魔法を使うためのだって」
「魔法……」
そうか……魔物なら魔法が使えて当たり前だ。
「それを使っている間、誰にも見られないよう見張りを立てたいと、そういうことか」
納得した俺の言葉に、カシェルは静かに頷いてみせる。
「あたし達が使うような単純な魔法なら関係ないけど、あの子が使うような複雑な魔法だと、それだけで魔物だって一発でバレちゃうからね」
「でも、その方法を取るのは止めるんだろ?」
「さすがに、あたし達三人だけで訓練場全体は見張れないから」
「三人……」
つまり、他に仲間はいないということ。
まあこの学校なら、魔物に対して平気な感情を持ってる人なんていないか。
「まあじゃあ、他の方法があるってこと? それこそ三人で何とか出来るようなのが」
「それは……いや、実を言うと無い」
「はいぃ?」
自分からこんな声が出るものなのかと思ってしまうぐらい、素っ頓狂な声が出た。
「じゃあ協力って何させるつもり? もしかしてこうして秘密を打ち明け合う必要性って無かったとか、そういうオチ?」
「いや……その帰りたいって言ってる子が、少し前から準備を急いだとかで……後は最後の仕上げが必要なんだって」
「仕上げねぇ……」
う~ん……なんだろ……ちょっと引っ掛かるな……。
「……少し前に準備を急いだってのは、いつ頃?」
「……リフィアが魔物を倒した時」
つまり、俺がリフィアの中に入った時か。
「それってつまり、魔物が学校に来たから焦ったってこと?」
「そうだって話してた。それまでも小さく準備をしてたらしいんだけど、もしかしたらソレがキッカケでバレるかもしれないから急ぐって。ただあたしとしては、噂の範疇を出てなかったから焦る必要なんて無いんじゃないかなぁ、とは思ってたんだけど」
実を言うと、そこは俺も気にはなっていた。
魔物が、人にとっては畏怖すべき存在で、魔物と言うだけで迫害の対象になると分かった時から、ずっと頭の片隅に引っ掛かっていた。
リフィアが本当に魔物を殺したのなら、噂話の範疇を出ていなければおかしいのでは、と。
つまり……実はリフィアは、魔物を殺していないのでは、と。
きっと、カシェルもそれが気になった。
だから直接確認に来た。
もし殺していないと分かれば、その魔物の急ぎを止められるかもしれなかったから。
「急げば急ぐほど危険度は上がるからさ。だから彼女自身が魔物だってバレて欲しくなくて」
「帰って欲しくないとかじゃなくて?」
「あ~……いや、本音を言ったらそうなんだけど……ほら、実験動物の可能性に気付いちゃったらさ。さすがに帰って欲しいって」
だから積極的に協力する気になった、ってことか。
「ちなみに気付いてるだろうけど、俺は本当に魔物を殺したかどうか分かってないぞ」
「何を今更。っていうかそれを教えられても、急ぐ彼女をフォローするって方針は変わらないから」
そう言うとカシェルは苦笑いを浮かべた。
「それに、初めて聞いた時に知らないって言われても、結局は同じぐらいの時に焦ってただろうしさ」




