いつも通りのカシェルと
「……なんでそこまで分かるのよ……」
嘆息混じりに、まるで愚痴でも零すかのようにカシェルが言葉を吐き出す。
「なに? リフィアって天才か何か? それとも未来予知的なアレ?」
「それこそまさかだって。こちらがしてるのは、大量の本を読んだ上での想像」
「本?」
「物語のね。今この中にいるのはリフィアじゃないからさ」
「……そう聞くと、ちょっとさっきの秘密を信じてみようかなって思えるわね……」
ううむ……と腕を組んで唸られてしまった。
「じゃあ今のリフィアなら、あたし達貴族しか習わないような文字の読み書きが出来るってこと?」
「こちらが知ってる文字とここの文字は全く違うから、さすがにそれは無理かな」
「……全部そういう感じに言っとけば誤魔化せる的なアレ?」
まあ、そう思われても仕方がないのもまた事実だけど。
「でもそれなのに言葉は通じるんだ」
「……………………え」
そう言われれば、そうだ。
今まで違和感なく受け入れていたけど、頭が変わっているのなら、言葉だって通じないようになっていないとおかしい。
まさか異世界なのに話している言語が本当に日本語ということは無いはずだ。
それこそ物語の中だけのご都合主義ということになって――
「――…………」
もしかしてこれは……今俺が見ているこの世界の景色や聞かされたルール等全てが、妄想や夢の類だという可能性もまたあり得る……ということか……?
「……あれ? なんか、考えさせちゃった感じ?」
無言で思考に耽る俺を見て、少し心配そうにカシェルが訊いてくる。
……とりあえず今は、入れ替わっていること前提で話しを進めたほうが良いだろう。他の可能性は留意しておくだけで十分だ。
「……まあ、カシェルのおかげで色々と考えることが増えたのは事実だし、それには感謝してるけど――」
「ああ、新しく考えておかないといけない設定とかかな?」
「――色々と誤魔化すために電波キャラやってるって思ってくれるのもまた結構だけど……それよりも、こちら側は何をすれば良いのか教えてくれない? そもそもはあなたの秘密を明かすことから始まったことなんだけど?」
その言葉を受け、さっきまで浮かべていた「初対面の時の明るい表情」が、また少しだけ翳ってしまった。
「不安なのは分かるけど、もう少し明るく話してくれても良いんじゃない?」
「え?」
「カシェルの友達とその友達は、あなたに協力してあげるって言ってるんだし」
黙って話を聞いてくれていたマリン、今正に言葉を発している俺、と順次視線を動かす。
「もっと明るくなってくれないと、信用されてないみたいになるからさ。大船に乗ったつもりでいてくれるなら、せめていつもぐらいには、さ」
「…………」
そんな俺の言葉にカシェルは、気まずそうに――困ったようにも見える色を瞳に宿らせ、
「……良い話してくれたところ悪いんだけど……リフィア。……マリンが寝てる」
申し訳なさそうにそう言ってきた。
「はぁっ!?」
俺も彼女を見てみると、座りながら顔を下に向け、ウトウトしながら時折身体を折り曲がらせ眠る褐色娘がいた。
「……………………」
俺の驚いた声にも反応しない。
間違いなく寝てるな……この子。
……まあ、俺の秘密を話してる間、彼女からしてみれば一度聞いた話しをもう一度されてるようなものだしな……。
「……まあ、余裕があるから寝てるってことで……」
「……ふふっ!」
何故かウケた。
「うん。まあ、そういうことで……うん、安心した。ごめんごめん。ちょっと、不安でさ」
……まあ、マリンのおかげで余計な力が抜けたみたいだから、それはそれで良かった。
「……ちなみにだけど、マリンっていつもこんな感じ?」
「あ~……実を言うとあたし、マリンとは一回しか深く話したこと無くてさ。というか、マリンが言ってたことは本当だったんだ、って実感してるとこ」
「どういうこと?」
「他の皆からしてみれば、あなたとマリンの二人は特殊な関係だと思われてるってこと。あたしもこうして聞かれるまで、マリンが嘘を吐いてる可能性があるなって思ってたぐらいだし」
「特殊な関係?」
「恋人関係」
度肝を抜かれた。
いや~……驚くと本当に言葉って失うんだな。
「二人共人付き合いそこまでしてなくて、しかも同室でしょ。そう思われても不思議じゃないって。ま、女子の間でしか広まってないけどね」
噂話好きのカシェルが言うと真実味があるな……いや実際真実っぽいし……。
まさかマリン自身が気付いていないところで、マリンの望む関係の外堀が出来上がっているとは……。
「…………」
ついに、ぽてん、と倒れて本格的に寝息を立て始めたマリンを見て、リフィアが元の体に戻った時、彼女がしっかりと協力してたことを教えられれば、案外あっさりと二人の関係は進むのではと、何となく思った。




