必要なのは、信頼関係
その言葉は即ち、俺に――俺たちに、これから厄介事に巻き込むけど協力して欲しい、という言葉と同義だ。
「…………え、っと……どういう、こと……?」
「なぁに、マリン。そう難しく考えるな」
未だ事情を掴めぬマリンに目を合わせ、俺は言葉を続ける。
「お前の友達が、困ってるから助けて欲しい、って言ってるだけだ」
「いや、うんまぁ、さすがにそれぐらいは分かるけど」
「え、分かってたのか?」
「分かってた! リフィアってさ、ちょいちょいわたしのことバカにしてこない? わたしこれでも、リフィアに色々と教えたりしてたつもりなんだけど?」
「そりゃそうなんだけど……なぁんかトロそうなイメージがずっとこびり付いてるんだよなぁ……」
おそらくは、俺にとっては初対面になった、この世界に来たての時に見たオドオドとした態度のせいだろう。
リフィアに対して強い憧れを持ちすぎて、その上嫌われていると思っていたからこそ、これ以上嫌われたくなくてあんな感じになってたのは分かるんだが……。
中身がリフィアで無いと分かった段階で、今みたいに普通に話せるようにはなってはくれたけど、あの頃の印象がどうも拭えない。
「トロくはない! ちょっとその……落ち込みやすいだけ!」
「いやそれもそれでどうなのよ……」
まあ素の俺もそんなんだから人のことあんま言えないけどさ……。
と、そんな俺達のやり取りを、カシェルが不思議そうな目で見ていた。
「……なに? どうかした?」
「いや……いつの間にそんなに話すようになったのかなぁ、って」
あ……。
俺もマリンも今更ながら、そのミスに気付いた。
「あたしもマリンから話を聞いてただけで、マリンがリフィアと話してるのを見たことはないし、直接リフィアとは話したことも無かったけど……そんなに話せるんなら、あたしに相談する理由なんて無かったんじゃない?」
「いや、それは……」
こちらをチラチラと見て助けを求めてくるマリン。
「ちなみにだけど、どんなことを相談されてたの?」
「どんなことって……いや普通に、リフィアと話そうとすると緊張しちゃって何も話せないんだけど、みたいな」
なるほど……同室の好きな子と話せないことを相談してた、って感じかな。
「いや実は、そのおかげで話せるようになって……」
「あんなに何度も相談してたのに? そのキッカケって?」
まあ、そう答えたら普通にそう訊ね返されるだろう。
「ぐぬ……! いやあれは何て言うか、話すキッカケと言うか……だってほら、カシェルさんは友人知人が多いけど、わたしにとっては数少ない友人だから……何がなんでも話を続けたかったと言うか……」
その気持ちに嘘は無いのだろうが、なんか今明かす必要性があったのかどうかが分からないな。
ただこれなら、厄介事に巻き込まれると確定した時から考えていたことを、実行に移しても良いかもしれない。
こんなマリンに無理矢理嘘を吐かせたり、隠し事があるとかシェルに思わせたままだと、正真正銘の協力関係なんて難しくなるだけだし。
「……まあ、なんかよく分かんないけど……とりあえず、聞かないほうが良い事情があるってこと?」
「いや、話すよ」
首を傾げながらも聞き分けの良いことを言って水に流そうとしてくれるカシェルの言葉に、俺は待ったをかけた。
「ちょっ、リフィアっ?」
「向こうが秘密を明かすんだから、こちらも明かすのが筋ってもんだと思わない?」
「それは……そうだけど……」
「マリンにとって数少ない友達なら、尚の事だろうしさ」
「……ごめん」
「謝らない謝らない。こっちはお得意の打算が働いてるだけだから」
「いやあの……無理には聞かないけど?」
「だから話すって」
尚も気を遣ってくれるカシェルに、待ったをかける。
「ここでの気遣いは無用。それに、ここでコチラ側の秘密をそのままにしちゃうと、その秘密がそちらに協力する上での等価交換になっちゃうだろ。こちらもこちらで協力する上で、別の条件を出したいからな」
「条件……えっ、お金的な?」
「カシェルがいくら貴族でも、そんなのは求めないって。噂話好きの情報通だからこそのお願いだよ」
でも今はそれよりも、と一度柏手を打って、俺は告げた。
「まずは、“俺”の秘密をカシェルに話そうと思う」




