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そこは異界の騎士学校  作者: ◆smf.0Bn91U
魔法と魔族編
29/52

友の言葉だから

 カシェルの魔物の拘り方は、決して復讐心ではない。


 むしろ真逆。


 魔物たちを守りたいからこそ来ているものだ。


 だから魔物の敵になるかもしれなかった俺が――魔物を殺したとされているリフィアがどうかを、探りに来た。

 もし敵と認識されたならどうなるかまでは分からないが……少なくとも、今この場で、こうして膝を突き合わせて話をするなんて光景は、無かったに違いない。


「さて……続きの話だけど、まずはどこから話をしようか」


 そんな集まりによる会話の口火を切ったのは俺から。


 毎日行われる地獄のような訓練は、いつも鐘の音が響く少し前に終わりを迎え、翌日に疲労を残さぬようストレッチ等を入念に行うことになっている。

 ちなみにこの二人一組になって行うストレッチも、それまでの疲労があるせいでかなりの痛みがあり、結局は地獄だったりする。


 そのストレッチの時に敢えてカシェルと組むことで、この約束を取り付けることに成功した。


 俺とマリンが住んでいる部屋での会合。

 貴族たるカシェルは一人部屋なので、そこに俺が出向くという方法も考えはした。

 が……同室のマリンに内緒でカシェルの部屋に行くのはそれだけで苦労しそうだし、結局いずれはバレることになりそうだし、そうなれば逆に隠していた事実の方が厄介になりそうだったので、こういう運びとなった。


「あの……その前に、わたしへの事情説明は……?」


 と、何の話も聞いていないマリンが、オズオズと口を挟んで訊ねてくる。


「事情説明、って言われてもな……こっちもまだ本題には入ってないんだ。ただちょっと、魔物についてどう考えてるのかってのを聞かれただけで」

「魔物について……?」


 マリンの椅子に座るカシェルを、どういうことか話して欲しい、と視線で訴えかけるマリン。

 俺は俺でリフィアの椅子に座り、マリンは自分のベッドに腰掛けている。

 全員が全員、それぞれとそれなりの距離を保っているような形だ。


「…………」


 狭い部屋だ。

 マリンが向ける視線から逃れることなんて出来ないのに、その目から逃げるかのように俯き黙るカシェル。


 彼女としては、俺と二人きりで話をしたかったのかもしれない。

 魔物を庇っている、という俺の考えが正しいのなら、事情を話す人は極力少ないに越したことはないという考えもわかる。


 だが改めて、俺が魔物にとって敵かどうかを訊ねてきたということは……俺を何かしらの厄介事に巻き込みたい、ということでもある。

 別に、カシェルを助けることに不平不満は無い。

 家と上手くいっていないだろうことは予測できるものの、それでも貴族であることに変わりはない。

 リフィアに戻った時、リフィア自身が助かるのなら、不本意とはいえこの身体を使わせてもらっている以上、良好な関係を築くことは何も悪くない。


 しかしそれでも、俺一人では限界がある。


 未だリフィアの身体が記憶している知識を、俺自身の記憶に刷り込んでいる途中だ。

 その証拠に毎日の地獄のような訓練中ですら、いつもの俺の動きに如何に無駄が多いのかを知らしめてくる。


 楽で効率的・それでいて戦いに向いている動き方というものがあることを、この身体に入って初めて知った。


 戦闘者というものは、毎日の動き一つ一つが、戦いに繋がっている。

 全身凶器というのはきっと、こういうのを言うのだろう。


 ……で、俺は未だそれになれていない。

 そんな俺が一人で、魔物が関係していることに首を突っ込むなんて……自殺行為そのものだ。


 だから、協力者が必要になる。

 俺の事情を知っている彼女マリンのような協力者が。


 ……これはある種の取り引きだ。

 商人の娘と言っていた彼女なら、理解してくれているだろう。


 協力して欲しいなら、マリンも同じように手伝わせないと協力するつもりはない。

 マリンを信じないなら、俺はお前を手伝うつもりはない。


 そんな、俺の意図を。


「ちなみにマリンは、魔物についてどう考えてる?」


 とはいえさすがに、マリンがどう考えているのか分からないのに、最終判断を下すわけにもいかないだろう。

 もしかしたら既に聞いているかもしれないが、それならそれで、この取り引きをどうするのかを考える時間に充ててもらえれば良い。


「どう? って言われても……人類の敵、としか……」

「じゃあ、その子を友達が大丈夫って言えば?」

「えぇ? なんですかその質問……。……あぁ……でもそれなら、大丈夫なのかなぁ、とは思うかも……」

「つまり、魔物全体は人の敵だけど、友人の友人なら大丈夫だってこと?」

「まあ……そりゃ、そうじゃない? 産まれた地域がメチャクチャ悪くても、その人自体が悪いとは限らないし……さすがに初対面だと判断基準にしちゃうかもだけど、知り合いに大丈夫って言われた後だったらまぁ……でも、魔物と友達の子なんているもの?」


 まぁ、普通はそう考えてしまうものなのだろう。

 まして別世界の俺に訊ねられては、いつもの“世界についての質問”だと思って「今その質問をしてくるということはもしかして……」なんて考えにも至らない。


 つまりこれは、マリンの素の答えだということになる。


 でも、それが分かるのは俺だけ。


 ……魔物を殺したと噂される人間の、魔物は絶対の敵ではないという言葉……そして魔物は人類の敵と答える人間の、友人の友人なら信じられるという言葉……。


 カシェルにとって友人の友人に当たる俺の言葉と、友人そのものな人の言葉……。


 それに対し、カシェルが出した結論は――


「……いるの」

「え?」

「あたしが、そうだから」


 ――その言葉を……関係性を、信じることだった。

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