抱える問題
「そ、れは……」
いきなり核心を突かれたせいだろう。
何と答えるべきかと、カシェルが迷いを見せる。
それだけでもう、答えを言っているようなものだ。
「……うん、まあ、その通り」
それを彼女自身も理解したのだろう。
諦めたように肯定の返事をしてくれる。
そうして答えがわかると同時、初めて会った時のされたあのジルについての質問も、彼女にとっては何の意味もなかったことなのだろうということを理解する。
彼女にとっては最初の話しかけるキッカケとしてした質問――本当に魔物を殺したのかどうか、が本題だった。
ナーディアート相手にあんな手こずる癖に魔物を殺せる訳がない。噂話に対する確証が全く得られない。だから直接聞くしか無い。
そんなところだろう。
彼を余裕で倒していればきっと、俺はカシェルに話しかけられることすら無かったかもしれない。
なんせ直接聞いても嘘を言われればそれまでだ。
ただ「強い」という事実があるだけで、噂話もまた事実だったと認識するには十分だと判断するだろう。
こうして彼女が魔物について拘ってると分かれば、そういったことが次々と見えてくる。
さっきからされている質問だって、全て魔物について聞きたかったからこそだと思えば、全て辻褄が合う。
俺の答えに「リフィアは魔物に関して何も考えていない」と思えたから、話を合わせて魔物のことを気にしていないように見せかけようとしていた。
さっきのはそういうことだ。
答えが分かったその瞬間、今までの行動の意図が分かる。
俺のようによく物語を読んでいる人なら理解できる感覚だろう。
ミステリー等で犯人が提示された途端、それまでの伏線が全て繋がっていくような感覚。
ソレを今リアルで味わっていると思ってもらえれば良い。
理系で言えば「分からなかった問題の答えが分かったらいきなり途中式まで分かるようなもの」……と言えば良いのか? ……この例えはさすがに自信が無いけど。
「それでリフィア、魔物についてはどういう考え?」
思考整理しているところに掛けられたカシェルの言葉。
魔物について早く聞きたいのが分かる――ある種の開き直りにも見えるその態度に、俺はつい苦笑いを浮かべてしまう。
「答えても良いけど……個人的にはカシェルがどうしてそんなことを気にしてるのかが気になるかな」
「それは――」
「と言ってもそれは、こちらの答え次第によるのかな」
「――…………」
言いかけた言葉を遮ってまでの俺の言葉に、再びカシェルが返事に窮する。
「ま、カシェルの意図が分かるんなら、たしかに話しても良いんだけど……それを話すには時間が足りないかな」
俺の言葉が合図だったかのように、学校が鳴らす鐘の音が響き渡る。
ここから街が鳴らす夜の合図鐘まで筋トレだ。
正に地獄。
「ここからは、夕食の後でってことで」
「……うん。分かった」
どうも納得がいかないような表情を浮かべるカシェル。
だからつい、訓練場への道を歩きながら、話してしまう。
「ただまあサラッと言っとくと……俺個人としては、魔物は絶対の敵とは思ってないから」
「だったら!」
それに対し、急に声を荒げてきたカシェル。
おそらくは、時間が足りないからこその焦り。
焦りながらも、どうしても聞いておきたい最低限のことだからつい、言葉に力が入ってしまった。
今のカシェルはきっと、素のままに……隠し事も出来ずに話をしている、ある種冷静じゃない状態なのだろう。
「どうして、あの時は殺したのっ!?」
あの時……それはきっと、本体の行動。
俺がリフィアの中に入ることになったのだろう、そのキッカケ。
しかしだからこそ、それは俺では分からぬことで……。
「その理由は、噂話好きで事情通のカシェルの方が詳しいんじゃない?」
なのでこうして、誤魔化すしか無い。
「気持ちは変わらない。でもそうして行動に移るしか無かった。そういう事情があった、としか言えない」
「…………」
「ま、納得のいく答えじゃないかもしれないけどさ。でもさっき不意に何かに気付いたことの事情も加味すると……色々と話してみても良いって思えない?」
「……………………」
それに返事はない。
しかしそれは、拒絶からの無視ではなく、熟考しているが故の無応答なのが分かって……。
「あ、ほら。皆集まってきてる」
入口に近づいたところでそう声をかけて、話題をそらす。
「とりあえずはこっからの筋トレ、乗り切ろうじゃないか」
駆け足で訓練場へと駆け込みながらも、俺もまた返事がないカシェルと同様、色々と考え始める。
きっと物語的には、この先こう展開されてしまうだろうという想像。
それも踏まえ、さっきまでの反応から導き出される結論。
外れていればそれで良いなと思える、彼女が抱えている問題。
夜にされる話はきっと……カシェル個人が抱える、カシェル個人は庇いたい……そんな、魔物の話だ。




