ためにならない授業
話としては無駄に等しい回になってしまったかも……お詫びとして明日は二話更新します。
「それではこの問題を、今日も調子が良いカディナッツォ様」
「はい」
色々と思考を働かせてる中、本日五度目の起立を行うナーディアート。
新たに貼り出された戦略紙は、盆地になっている森を挟んで互いに対峙している。
兵数はこちらが圧倒し、あちらは撤退している、そんな状態。
向こうからこちらに攻め入ってきたのに返り討ちにされ、撤退戦に移行している……といったところだろうか。
……最早この想定がよく分からない。
向こうから攻めてきて返り討ちに遭い、逃げている。
が、相手は既に森を抜けている。
どう考えても追撃戦になんてなりはしない。
森で足止め出来るし、万一迂回ルートなんて通られてもその間に逃げ切れる。
相手は逃げる準備を万端にして攻めたのだろう。どう見ても逃げられない道理なんてどこにもない。このまま逃げればそれで終わりだ。
だがそうはいっていない。
なんでも敵が攻める時に通ってきた道――敵が逃げ道だと想定していた所に、都合よくコチラの兵士が配置され、足止めをしているらしい。
もうそんな容易に背後に回れるなら、相手が迂回か森のルートを通っている間に罠ぐらい仕掛けられただろう。
それともまさか、敵が背後を取られるかもしれないのに戦いを仕掛けてくる程無能だと言いたいのか。
撤退路を確保していたのなら、普通そこに敵が回り込むような真似をさせるはずがない。
本当、想定があまりにもあり得なさ過ぎる。
まぁそんな疑問はあるがともかく、それでもこれは逃げている相手を追撃する戦いらしい。
森を迂回すれば安全に進めるが、その間相手の背後を付いてくれてた味方が全てやられてしまい、撤退を許すことになるかもしれない。
逆に森を突っ切れば追いつくことが可能かもしれないが、見知らぬ森を馬で突っ切るなんてほぼ不可能。
こちらもまた時間が掛かってしまう可能性が高い。
さてどうするか……といった所か。
「ここはこちらの部隊の安全を考慮し、迂回ルートを進みます」
「しかし、その間に逃げられてしまうかもしれないが?」
「ご安心を」
教師の尤もな指摘にしかし、ナーディアートは余裕な笑み。
「それなら敵にも、背後を気にしてもらえばいい」
「ほう……」
「森に火を点けてしまえば良い」
「えぇっ!?」
とんでもない戦術に思わず声が上ずった。
「ん? どうかしたのかね、カディナッツォ様のおかげで授業を受けられている平民」
その呼び方面倒くさくないか? とツッコミたかったが、それ以上に言いたいことが出来た。
「いえ……森は貴重な資源です。それを、敵を追い詰めるためとはいえ燃やす等という手段に出るなど……」
しかも、燃やしたところでどうなるというのか。
火を点けたその瞬間、敵には「背後を追いかけてきていた部隊は迂回ルートを通った」と情報を与えてしまうことになる。
森を巧みに一部分だけ燃やして、森を通っていないように見せかけるならまだしも……。
そうじゃない、利点なんて何一つ無い手段を取って、一体どうするというのか。
「相手を屠るためならば、多少の犠牲も仕方がない」
隣に立つ貴族様がリアルに見下しながら(相手が立ち、俺が座っているせいだ)、さも当然のように言ってのける。
そりゃあの戦術紙面にはただの森としか書いてないが……コレ、近くにこの国の村があったりしたなら、野生動物や木のみなどが燃やされるのは溜まったもんじゃないようにしか思えないが……。
いくら敵を倒すためとは言え、やって良いことと悪いことはある。
「それに、燃やすと言ってもほんの一部だ」
「一部?」
取ってつけたような言い方だが、それもそれで無意味な気がするけど……。
「ああ。相手を怯えさせればそれで良いからね。三分の一から半分、といったところか」
それは一部とは言わない。紙面の中心にデカデカと描かれたあの規模の大きな森の三分の一から半分って……その後森が死滅する可能性の方が大きい。
「それなら、キミは他にいい案があるのかね?」
教師に指され、仕方なしに起立する。
「森を突っ切る、なんて、兵を犠牲にするような手段だけは取るなよ?」
座りながら忠告にもならない忠告をされたが……コイツ……ぶん殴ってやりたい。
「え~……そうですね……」
俺が発表しようとしたその時、貴族たちからの注目が集まる。
そりゃそうか。
今まで俺のせいでナーディアートばかりが当てられていたのだ。
この貴族としては有名な奴が目をかけている・ライバル視している・イビりたがっている存在が、何を言うのか気にはなるだろう。
「まず、部隊を二つに別けます」
という訳で、中々に注目に応えるような作戦を立案し始めた。




