現実だと認識して
「……………………え?」
思いもよらぬ言葉に、つい間抜けな声を出してしまった。
肯定しているのと同じ意味に取れてしまう、何とも間抜けな声を。
「あたし、リフィアとは確かに初対面だけど、戦ってる時はあんな言葉遣いが汚くなる娘だとは思ってなかったな~」
「そ……そうだったんだ」
これは……もしかして……。
「いや、意識してなかったから、言われてビックリしたよ~……」
意識して出した女性っぽい喋り方に、自分自身のことながら違和感を覚えながらも、そのまま誤魔化しにかかる。
どうやら、中身がリフィアでないことに勘付いたとか、そういうのではないらしい。
言葉遣いが男っぽくなることに対しての純粋な疑問。
それならこのままただ驚いただけってことにすれば――
「そうやって乗ってくるってことは、やっぱり何かあるんだ」
――生まれて始めて、驚きで息が詰まった。
物語の中で何度も見てきた描写を、こんな場面で味わうことになるとは、思いもしなかった。
「……実はあたしの家って、それなりに有名なの」
言葉を――ともすれば息すらも吐き出せていない俺の前で、カシェルは続ける。
「有名な商家でね。この学校がある街に買い物へ行った人の中で、クリアッド商会を知らない人はいない。あなたも多分、買い物をしたことがあると思う。何もないままのリフィアならね」
「……初対面なのに、どれぐらいこちらのことを知ってるのやら」
絞り出した言葉が、ボロを出したものじゃないだけ褒めてもらいたい。
内心、初対面じゃないのかも、とも思ったが、もしここでそのことを質問すれば、それこそバレてしまう。
もし本当に俺とリフィアの中身が違うことを悟っていれば、ここでこの言葉に対して否定を返すはずだ。
「確かに。あたしはリフィアと始めて話すから、あなたのことは何も知らない」
この返事だけで、本当に初対面……だということにして良いだろう。向こうが知人なのに俺の“初対面”に乗っかってくる理由がない。
もしかしたら俺の把握出来ない事情があるのかもしれないが……それはもう、俺には関係ない。
なんせ明日には、元に戻るはずだ。
俺もリフィアも。
カシェルの疑問もそれで無意味と化すはずだ。
「でもだからと言って、あたしの名前を聞いて無反応っていうのは、さすがに違和感があるよ」
「そうは言っても、こちらとしてもあなたの名前は知ってたし、見かけてもいたから。話を聞いても無反応でいることぐらい出来るって」
「噂話好きってことを知らなかったのに?」
「そういうこともあるでしょ?」
「…………」
無理矢理な言い訳に納得をした様子は微塵もない。
しかし今、これ以上俺を追求することが出来ないことぐらい、彼女なら分かるはずだ。
追求したとして、こんな感じで誤魔化され続けられてしまうことぐらい。
「……まあ、それならそれで良いけどさ」
それを悟ったのか、はたまた今回は軽くつつくだけのつもりだったのか、カシェルもそう言ってあっさりと引き下がってくれた。
……本当、早く元の体に戻りたい。
こうして追求されるようなことに慣れていないだけに、ただただしんどいだけだ。
◇ ◇ ◇
そうして、明日になった俺の目に映ったのは……見覚えのある天井だった。
つい昨日覚えた、寝る前にも見たのと同じ天井。
「…………マジか」
そしてまさか、こうボヤいてから二週間経っても、一向にリフィアの中に居続けることになるなんて思いもしなかった。
そもそも、翌日元に戻るなんてものは、物語ばかり読んできたが故の楽観視でしか無く……。
この翌日もまだ、リフィアで居続けることになってようやく……己の身に起きた現実だと、認識するようになった。




