噂好きの少女
「それで、何を聞きたいんだっけ?」
「ジグゼイル様との関係、かな」
倒れた槍を二人で片付けながら、部屋に隠れていた彼女の話を聞く。
「って言われても、ここに居たんなら聞いてたでしょ? あの人とは何もないってこと」
「本当に~?」
「本当本当。大体、あの人なら誰であっても同じことしたって思わない?」
「ま、それもそうか」
あっさりと引き下がった……と思ったら、それじゃあ、とまだ聞きたいことがあったのか、さらに訊ねてくる。
「それだったら、今回の騒動になった原因……魔物を倒したってのは、本当?」
「本当、って言った所で、信じてもらえる?」
「さあ……どうだろうね」
「ってことは、あの貴族様を倒したのは証拠にはならないって訳だ」
「あっ、逆に情報を引き出されちゃったかも」
苦笑混じりに気にした様子もなくそう口にした後、ん~、と少し考えてから答えてくれる。
「まあ、あの人の家がスゴいってのは有名だけど、強いってのは聞いたこと無いしね。同じ学科だから尚の事分かってるでしょ?」
「……まあ、否定はしないけどね。他学科だったら違うかなぁ、って思って」
知りもしないけど誤魔化しも交えて返事をし、怪しまれる前に少しばかり話題をズラす。
「それよりも、こういうこと聞いてきたりして詳しくなろうとしてるのはどうして? 情報通、みたいな感じ?」
「いやいや、ただ人の噂話とかに興味あるだけ。だからジグゼイル様があなたを助けてるのを見た時、いつものあの人らしいけど、もしかしたら何かあるかもって思って」
「で、それを知ったら周りに吹聴するって訳」
「そっちにとっても悪い話じゃないでしょ?」
「…………まあ、それもそうか」
誰からも慕われてるアイドルのようなイケメン男子との仲を勘違いされ続けられるぐらいなら、何も無いと広めてもらったほうが良いのは確かだ。
「でも、あなたの言うことって周りに信じてもらえるの?」
「そこは保証できないなぁ。だってあたしがいくら真実を言っても、聞き手が信じたくないことだったら信じてくれないでしょ?」
そりゃそうか。新聞やテレビとは違う、ただの噂話だ。
信じたくないものは信じない、というのは正しいだろう。
「それって、いやじゃなかったりしない?」
「どうして?」
キョトン、と返されると、逆にこちらも返答に困る。
まあ、別にジャーナリスト精神に溢れて噂話を集めている訳ではない、ということだろうか。
本当に個人的な興味を引くものを聞いてるだけ。
で、それを教えてほしいと言ってる人に教えている。
ただそれだけだから、周りに言って信じてもらえなくても何も思わない。
そんな所だろう。
……そんな人、俺の周りには一人もいないから、この判断が正しいのかどうかわからないが。
正直、俺が読んできた物語の中でも見たことがない。
普通情報を知って周りに話したいという衝動は、その話してる間だけでも周りに注目されるのが好き、というのが根幹にある……と思っていた。
そうじゃないのに、ただ知って・広めたいだけというのは……“注目されたい以外の目的がちゃんとある”、ということ……だろうか。
……だったら……。
「ふぅ~……この束で最後、かな」
倒れていた槍を十本ほど抱え上げ、一本一本立て掛けていく彼女を見る。
「……もしかして、彼のことが好き?」
「えっ?」
片付ける手を止め、コチラに向けてキョトンとした瞳を向けてくる。
「いやだって、話を聞いて広める気しかないのに周りに信じられる必要もないってことは、本人が『何もないと否定してた』って噂が広まってるだけでも良いってことだろ? じゃあなんでそういうのが必要なのかって考えたら……彼が好きだから、アタックするための口実として欲しいってことかなぁ、って思って」
「……ぷっ」
俺の推理に、彼女は思いっきり吹き出した。
「あっはははははっ……! ないない! 確かにジグゼイル様って顔は良いし育ちも良いけど、あたしの好みじゃないからさ」
「でも“様”って付けて呼んでるし」
「そりゃ、同じ貴族の出としては、向こうの方が資産とか土地とか広い以上、イザコザを起こさないためにもそう呼んでおかないと。ま、彼本人は気にしないだろうことは、同じ学科だから分かってるんだけどね。親とか彼の人気とか、そういうのがあると困るから」
「……じゃあ、何で俺の話を聞きたがってるんだ?」
「そんなの、あたし個人の興味だからだよ。そう言えば、お互い自己紹介がまだだったね。あたしの名前はカリュシェール・クリアッド。カシェルで良いよ。よろしく」
「…………リフィア。よろしく」
そうして名乗り返す俺を見て、彼女――カシェルは、花の咲くような笑みを浮かべた。




