控え室での出会い
明日はちょっと更新できないです……申し訳ない。
控え室について借りてきた剣を元の位置に戻したところで、オドオドとしたノックが響いてきた。
誰が叩いてきたのかはすぐに分かった。
「マリンだろ。入って良いよ」
その言葉を受けて開いたドアの向こうには予想通り、褐色肌の巨乳ちゃんが立っていた。
「お、お疲れ様……リフィア、さん……」
「どうも。というかここ、更衣室のような場所でしょ? あなたも勝手に開けて入ってこれば良いのに」
「す、すいません……」
「いや、別に怒ってる訳じゃないから良いんだけど」
着替える時は出入り口が咄嗟に開いても、すぐに中が覗けないよう入り口にカーテンがある。
もし開けたタイミングで中を覗かれ着替えを見られたとしたら、それを閉めずに着替えるほうが悪いだろう。ま、今回は制服のまま戦ったので、カーテンなんて引いてなかったんだけど。
「その……リフィアさん」
中に入ってドアを閉めたところで、珍しくマリンから声をかけてきた。
「さっきのあの方のこと……えっと……その……」
「さっきの? ああ、ジルのこと?」
「えと、多分……助けてくれた、あの貴族様……」
「それがどうしたの?」
「……………………」
何か言い辛いことなのか、中々言葉が続いてこない。
しかし傍にある使い古された椅子に腰掛け、前髪で隠れた視線を右往左往しているのが可愛いなと思いながら気長に待っていると、ようやく口を開いてくれた。
「……あの人のこと、好き、なんですか?」
「いや全然」
「そ、そうですか……!」
間髪入れずの答えを聞いて、喜びを抑えたような声と、下げたままの手が強く握られたのが見えた。疑うことをしないその姿から、本当に喜んでいることが分かる。
にしても……う~ん……コッソリガッツポーズなんて……この子はホントにリフィアのことが好きなんだなぁ……。
……コレって、恋愛面でだったりするのだろうか……? だとしたら……いやでも今は中身俺だから間違いじゃない気も……う~ん……?
「そ、それだけです! あのっ、やっぱりリフィアさんは強くて、わたしの憧れそのままで、あの時何も言い返せなかったわたしとは違って勝負して、勝って……その、カッコ良かったです!」
それじゃあ! と俺が悩んでいる間に顔を真っ赤にして言いたいことだけ言って、さっさと出ていってしまった。
「……難しい……」
思わず言葉が口をつく。
いやもちろん、付き合うのはリフィアである以上、俺が何か結論を出すこと自体が間違いではあるんだけど……でもどうもマリンの反応を見る限り、リフィアは彼女に対して無愛想――というか誰に対しても無愛想だったっぽいからなぁ……。
多分、マリンのこともどうも思ってなかったぽいから尚の事……。
俺個人としては、男のままだったならマリンの告白を断る理由なんてどこにも無いんだけど。
生憎と、明日には戻るだろう存在だし。考えるだけ無駄か。
「何が難しいの?」
「ひっ!」
突如、考え事をしている俺の背後から聞こえた女性の声に、文字通り飛び上がってしまった。
おそらく反射に依る行動だろう。
そのままの勢いで転がり、声のした方向と距離を取って対峙した。
そこまで大袈裟な反応をするということは、おそらくリフィアの身体でも感知出来なかったということ。
「いやいや、そんな驚かなくても」
そうして警戒心を露わにする俺に対し、その女性はパタパタと明るく手を振って、槍を立て掛けている裏から出てこようとしていた。
「……いや、気配もなくそこから声がしたら誰でも驚くって」
「そうかな? う~ん……そうかもっ」
「あっけらかん」という言葉がピッタリな程明るく答えられ、なんと返事をして良いのか困ってしまう。
というかその場所、さっき剣を立て掛けた時隣にあった場所だよね……? 実際に視界に入っているはずなのに気付かないって……。
そりゃ、槍も剣も立てかけてる束の列が三列ずつあるから、その奥に隠れられたらあっさりとは見えないけどさ……。
「まあまあ、あたしのことは良いから、ちょっと色々と聞かせてくれない?」
「色々?」
「そうそう。えっと、ちょっと待ってね。今出るから」
木で作られたその槍を立て掛けるための家具(なんと言って良いか分からない)の裏側から出るのに、かなり手間取っている。
「んしょっ……あれ? 入る、時は、そこまで苦労、しなかったのに、な……っと!」
「……あの……手伝う?」
「良い良い。大丈夫大丈夫。それよりも、あの訓練のこととか、ジグゼイル様に声を庇われたこととか、色々と教えてもらうからさ。逃げないでよねっ」
ジグゼイル様……か。
やっぱり彼は女子の間で有名な人だったか。
まあ、イケメンだしな。
でも、彼女の声は、さっきここに来る前に聞いた“あの声”とはまた別だ。
訓練場方面から聞こえた“あの声”は、もう少し低かった。
今の彼女のような活発さには遠く及ばない。
声優の声を聞き分けることに特化した俺の耳なら間違いない。
特徴的な赤く長い髪。
それを一つに括っているのと例の声質、さらに丸みを怯えた瞳や時折見せた笑顔等から、活発な印象を受ける。
それに雰囲気が子犬っぽいと言えば良いのだろうか? どこか人懐っこい印象を受ける。
もしかしたらその背の低さが、どこか庇護欲を煽っているのかもしれない。
「よしっ。そろそろ抜け――」
身体を出せて、油断したせいだろう。
槍の持ち手にささくれでもあったのか。
制服の端が引っかかり、少しばかりバランスを崩す。
そしてその足が槍を立て掛けている道具に引っかかり――
「――わっ……! っとと……!」
――ガラガラガラ……! ……なんて言葉じゃ足りないぐらいの大きな音を立て、全ての槍を倒してしまった。
「…………ああ~……」
「……拾うの、手伝うよ」
「うん……ごめんね」
女性騎士が扱う為にと保存してある訓練用の槍六十本あまりが全て倒れてしまった。
正直全てを元に戻すのなんてかなり時間が掛かる。
が……ここで手伝わない訳にはいかないよなぁ……。




