出始めるボロ
「それにしても、初対面の相手をよく助ける気になったな」
あの場で自己紹介するなんて、真面目一辺倒なこの男なら本当に初対面なのだろうと決めつけ、堂々と二人揃って訓練場を離れたところでそう訊ねた。
それにジルは、当たり前のことだ、と立ち止まって真正面から俺を見つめて続ける。
「困っている人を助けるのは、騎士としての務めだからね。それに……」
「……それに?」
「いや……あまり騎士らしくは無いのだが……正直、前から君のことは気になっていたんだ」
「はぁ……」
これは……リフィアのことが好き、なのか……?
う~ん……だとしたら俺が聞くのは違う気が……。……止めるべきか……?
「よく、隅っこで一人素振りをしているだろう?」
「あっ」
「あ?」
「いや、なんでもない」
危ない危ない……勘違いで恥をかくところだった。
リフィアの恥になると言っても、さすがにこのミスは俺でも恥ずかしすぎる。
「まあ、その素振りをする姿を見て、どれほどの力があるのか気にはなっていたんだ。だから食堂での騒動を見た時も追いかけて試合を見ていたし、実力差が如実にあったからといって集団で襲いかかろうとするのを、止めずにはいられなかったんだ」
「そりゃどうも」
実際に俺がしてた訳じゃないから反応に困るな。
「テメェジル様が褒めてんだからもっと反応しろよ……」
「ん?」
聞こえた声に振り返るが……そこには誰もいない。
というかこの位置から振り返るってことは訓練場に出るってことになるんだけど……あの声は女性だったからあの九人の誰かが追いかけてきたってことはないだろうし……。
う~ん……気のせい……か……?
「どうかした?」
「いえ、何も。それよりも、せっかく助けてもらったついでで申し訳ないんだけど、ちょっと魔法について知りたいんだけど」
「魔法か……いや、申し訳ない。実は自分も、去年教えてもらった基礎的なことしか分からないんだ。だからキミと一緒で、使うことは出来ても原理はよく分かってないんだ。槍騎士科も君たち剣騎士科と一緒で、魔法には重きを置いていないからね」
「そういえば今更だけど、同い年ってことで良いんだよね?」
「いや、それはどうだろうか」
少し驚いたような表情をされ、質問に不備があったことを悟った。
「僕は君の年齢を知らないからね。まあ、学年が同じであることに違いはないけど」
そうか……リフィアの年齢が十五・マリンが俺と同い年の十四だからといって勘違いしていた。
当たり前だ。中世のような場所だし、そもそも騎士学校なんてものが義務教育のような環境じゃない。大学と似たようなものだと考えるべきだった。
つまり、学年が一緒なら敬語は必要なく、そして互いの年齢も何となく悟るしか無いということ。
「ごめんごめん。間違えた。それを聞きたかったの。ただでさえ貴族相手にこんな言葉遣いなのに、さすがに学年まで違うのにそのままだったら問題だと思って」
「ははっ、それは無いよ」
「えっ?」
「だって、さすがに貴族でも基礎訓練は抜け出せないからね。一昨年の僕たちだってそうだっただろ? 鬼のような教官の目の前で筋トレさせられて、素振りさせられて……二年ごとにしか入学資格も無い中合格したんだから死ぬ気で鍛え上げろ、ってどやされてたじゃないか」
「あ……! あ、あぁあぁ! そうだったそうだった!」
これまた墓穴を掘った……!
というかそれってつまり、リフィアを庇うだけで女の子たちがザワめくぐらい有名な人相手に「お前俺より学年下の可能性あるよな?」って言ってるようなものじゃん!
助けてくれた相手になんて失礼な、とか以前に、このまま話していちゃドンドン穴が深くなる一方だっ!
ジルが純粋な上に自らの好感度に疎いからか何も疑問に思っていないようだが、これ以上の会話はあまりしない方が良い。
絶対に、そろそろボロに勘付かれる。
「そ、それじゃあ、ちょっと、図書室の方に言ってみるわ。本当、助けてくれてありがとう」
「あっ、リフィア殿」
「んっ!? な、なにか……?」
「その……良ければまた、明日の自主訓練のときに、お話しませんか……?」
「……………………もちろん、喜んで」
全然喜べないけど……! でもさすがにここで邪険には扱えんだろ……!
もしかしてコチラのさっきまでのヘマに気づいたか……!?
「はいっ。ありがとうございます」
焦っていたせいだろう。
俺はその嬉しそうな声に慌てるよう背を向けて、軽く手を挙げるだけで答えるという、後々になって本当に失礼だなと思える行動を取ってしまっていた。




