本物の貴族
いつもよりさらに長くなりました。おかしい……目標枚数の倍はちょっと多い……。
そこにいたのは、ただのイケメンだった。
この学校の先生ではない。自分たちと同じ制服を着ていることから、それは間違いない。
光を浴びて煌めく金色の髪に、遠くからでも分かる碧眼。
クッキリとした目鼻立ちに、細身ながらもしっかりと鍛えられているのが分かる所謂「細マッチョ」な体型をしている。
まるでお伽噺に出てくる王子様のような外見をした、その男性。
その姿を見た瞬間、「なるほど、コレが本物の貴族か……」と感心してしまった。
俺が相手をした貴族様とは違う、圧倒的なまでの高貴な雰囲気。
目にするだけで跪いてしまいそうになる、生まれからして上にいることを意識させられるその出で立ち。
これこそが本物の『貴族』というものなのだろう。
現にここに乱入してきた彼のその一声で、俺に向けて攻撃を仕掛けようとしていた九人の動きも止まっていた。
「ジグゼイル……!」
一つの怒号で静まり返った訓練場において、俺が倒した貴族様の苛立ちを孕んだその声は、容易に俺の耳にも届いた。
「……まずは礼を言おう。ジグゼイル殿」
しかし次の瞬間、立ち上がりながら掛けた金髪に向けてのその声は、安堵を見え隠れさせる落ち着いた声だった。
……尤も、言うまでもなく隠し通せているようには聞こえないが。
「構いません、ナーディアート殿。貴殿の友人が罪に問われるようなことになれば、同じ学舎で学んでいる身としても気が気でありませんでしたから」
それに気づいているのかいないのか。
ジグゼイルと呼ばれた金髪貴族は平然と答えながらこちらへと歩み寄ってくる。
「さすがに、訓練を終えたばかりで魔法を解除しているような女性相手に、急所を狙った矢を放ち・戦闘を継続するような真似をしては、どうなるか分かりませんでしたからね」
「どうなるか? 普通に訓練中の事故で処理されるだけでしょう」
「果たしてそうでしょうか? 魔法が使えるからとこめかみを狙った攻撃は、確かに訓練中に防げなければただの事故でしょう。ですがあの時の攻撃は、間違いなく不意打ち。戦闘が終わっていて魔法が解除されているであろうことは誰の目から見ても明白。そんな攻撃でも果たして、その理屈が通じたでしょうか?」
「それは……」
何かを言いかけて、その言葉を呑み込む貴族様ことナーディアート。
大方、もし証言を取られてもそこは金の力でどうにか出来る、と言うつもりだったのだろう。物語上のこういった貴族は、平然とそういうことを考える。
でも、それを言わなかった。
このプライドの塊みたいな貴族様が。
どうやらこの金髪貴族ジグゼイル、本当にそれなりの格を持った貴族のようだ。
「もしあの時、彼女が矢を弾かなければ……君達は人を殺していた」
そのジグゼイルは、俺を取り囲み殺そうとしてた九人に、言葉の矛先を向ける。
「さすがにあの状況では、訓練中の事故という言い訳は出来なかっただろう。誰が見ても分かるその状況で、さらに襲いかかる。それでは、訓練の名を借りた私怨……騎士にあるまじき行為として退学処分――もし死んでいれば殺人罪として処罰される可能性があった。確かに、君達が慕っているナーディアート殿は、本当に君たちのことを庇ってくれただろう。君たちがそこまで義憤に駆られ動いたということは、彼もまた己の責任に身を焦がすことになる。本当に彼を慕うのなら、ここで剣を引くべきではないか?」
果たしてそうだろうか……? あの貴族様なら平然とコイツ等を切り捨てるだろう。
ジグゼイル、どうやら演技も見抜けのお人好しのようだ。
ま、そこも含めて貴族らしいといえばらしいか。性善説で動いているのとか特に。
しかしまあ今は、その責め方の方が貴族様を追い詰めることも出来るだろう。
コレを狙ってやっていれば食えない人だったんだが……問いかけるその口調は純粋そのものなのだから、きっと本心で言っている。
ある意味彼も分かりやすい。
「とはいえ、さすがにこのまま引いたのでは、結局は問題の先延ばした。故に――」
そこで、俺よりも前に出て説いたジグゼイルはこちらへと向き直り。
「――次は、この私と訓練をしてくれないか?」
そう、問いかけてきた。
「…………あぁ」
ボソリと呟く。
だってこの男の狙いが、分かったから。
「分かった。引き受けよう」
「感謝する。だが私も、万全の君と勝負がしたい。故にどうだろうか? 君の都合が合うようになれば、声をかけてくれないか?」
「そうしてもらえると助かるかな」
苦笑いを浮かべた俺の返事に、向こうもまた自分の狙いをこちらが把握していることを理解してくれたようだ。
「重ね重ね感謝する」
そう返事をくれた後、再び訓練場全体へと声を響かせる。
「皆の者も聞いたな! 次の訓練の相手はこの私だ! その前に彼女に勝負を挑むことは、我がジグゼイル・ヴェイルロイドを侮辱するものと心得よっ!」
静まり返った訓練場に、少しばかりのザワつきが広がる。
これだけ真っ直ぐな男なのだ。
きっとファンも大勢いるのだろう。ザワつきのほとんどは女性の声だった。
そんな彼がここまでして俺を――女性であるリフィアを庇った。
良い気がしない女性が多くなりそうだが……まあ、こうして命を狙われるよりはマシか。
さっきの勝負の結果のこともあるし、女子特有の陰湿な嫌がらせだってされないだろう。……この世界でもそういうのがあるのかどうかは知らないけど。
「受けてくれてありがとう」
「お礼を言うのはこっちの方。厄介事を遠ざけてくれて、助かった」
振り返って言う必要のないお礼を再び口にした彼に、こちらも感謝の言葉を述べる。
「私は、ジグゼイル・ヴェイルロイド。ジルと呼んでくれ」
これだけのことをする人物だ。
きっと学内ではそれなりに有名人だろうに、わざわざ自己紹介をして握手まで求めてきた。
間違いなく初対面。俺のせいでリフィアの交友関係が広がるのは避けたいところだが……。
「リフィア。よろしく」
本当に真っ直ぐな男で、同性の俺でもイケメンだなと思ってしまう。
そんな彼の手を取らないでいることなんて、俺には出来なかった。




