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そこは異界の騎士学校  作者: ◆smf.0Bn91U
貴族と騎士編
12/52

貴族様との戦い、決着

 ――瞬間、脳裏にある閃きが過ぎった。


 余裕があるから色々と考えることが出来、身体が動いていた。




 ――では逆に、極限まで余裕を無くしても同じになるのではないか? と。




 言うなれば、街中で突然刃物を突きつけられ、パニックになってしまうようなもの。

 そんな経験一度も無いが、今まさにこの目の前の状況が、それに等しい。




 “パニックになり過ぎて、現実逃避に等しくなり、戦いのことなんて考えていない”。


 “頭の中が己の死で埋め尽くされ、ソレで埋め尽くされていることすらも自覚できず、ただ何も出来ないような状態”。




「……………………」


 振り下ろされる刃。

 尻もちをつき、男を見上げる俺。

 それを客観的に頭の中で描く。




 ――そんな状況でも、身体は勝手に動いた。




 手に持っていた剣を頭上に構え、相手の剣に当て――たと思うと同時、横へと流す。


「なにっ……!」


 驚く貴族様の声は正面から。


 “しかし、その顔は見えない”。


 ただ分かるのは、自分はちゃんと、身体を動かせているということだけ。


 足に力を込め、矢が刺さった腿の痛みを堪え、身体を器用に回転させ、その勢いを乗せた斬撃を放つ。


「くっ……!」


 手応えはない。

 ただ、さっきまで眼前にあった“人がいた気配”が消失した。


 それを把握した訳ではないだろう。

 元々の予定だったのか、俺の身体はさらに回転を加え、腕を使って跳ねるように飛び上がり、しゃがみ込んだ状態で着地した。


「貴様……! それはどういうことだっ!」


 遠くから聞こえる貴族の声。


 その場所がどこか、と俺が思考するよりも速く――身体が動いていた。


 風の感触が肌を切る。

 しかしそれも一瞬で、身体を止めたと思った頃には、腕が振るわれ刃物がぶつかり合う音が響いてきた。


「目を閉じるだと……!? お前はそこまでして俺をコケにするつもりかっ!?」


 ――そう。


 与えてくる情報を――戦いに依る情報を、失くせばいい。


 そのために俺は、目を閉じたのだ。


「ふっ……お前の動きは余計なことを考えさせるからな。コレでちょうど良い」


 挑発混じりに、俺は言葉を紡ぐ。


「なぁに、コレで負けてもお前の責任にはしないし、死んでもそこまでってことにしてやるさ」


 その言葉をキッカケに、再び貴族様を圧倒しているのが分かる防御音が、瞼の向こうで聞こえてくる。


 俺の思考は全て、リフィアの動きを邪魔している。

 さっき大きな隙を見せた時、俺が何も考えていなければきっと、とっくにカタが着いていた。

 なまじ、敵が弱すぎるのがいけない。

 戦闘素人の俺でも分かるぐらいの大きな隙が発生してしまうから、俺の思考もそこへと向いてしまう。

 結果俺が身体を動かそうとしてしまい、それまでのリフィアとは違う動きになり、醜い素人の攻撃になってしまう。


 だから、目を瞑った。


 音と気配は分かる。

 しかし見えないから、それが正しく反応できてるかどうかなんて分からない。


 その結果、この身体が自動でその気配に反応する。


 俺では朧気にしか分からないから、反応なんて出来ない。

 だけどリフィアは違う。この身体はそうじゃない。


 その朧気に分かる相手の気配に、圧倒できる程の強さがある。確信を持って言える。




 だから、全てを委ねる意味も込めて、目を閉じた。




 ……ただそのせいで、決着がどうなったのか見えなかったのが、少し残念だった。


 あらゆる攻撃の群れを浴びせる中放った最後の一撃は――剣を振り下ろし、敢えて魔力を込めず刃を撓らせ、相手の剣を通過した後魔力を込めた……のだろう感覚が、手に伝わってきたのが、分かっただけ。


 そこから身体が動きを止めたので、目を開けてみると……相手の鎧の隙間に刃を入れ、後一突きすれば貫くほどの距離で切っ先を停止させている、そんな状況だった。


 魔法を使っても防げない距離。

 皮膚一枚――ではなく、軽く肉に刃を埋めて、一筋の血を流し、相手が震えて動けなくなっている、そんな状況。


「……降参するか、貴族様?」


 俺のその勝利宣言に喜びはなく……あったのは、ただの安堵だけだった。

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