74章 蒼vs赤―――00:13:00
「あら、意外と早かったわね。あと五分は掛かると見積もっていたのに」
朝日の差し込む車内の運転席には、娘を膝に乗せたビーツェ車掌。対する旧友は助手席に座り、憔悴した彼の頭へ銃口を向けていた。更に空いた左手の指をパチン!と鳴らし、炎を出現させるパフォーマンス。明らかに脅迫過剰である。
「魔術まで使えるのかよ、あんた……けど、そんな弱火じゃ列車は爆発しねえぞ?」
「ええ、これが無ければね」
操縦席下に置かれた透明な液体入りペットボトルを示す。
「ああ?ただの水じゃねえか。ハッタリも大概に」
「ジャック君!?」
衛兵の制止に被せ、私も冷静に説明する。
「昔からベアトリーチェは化学に造詣が深いの。中学生の頃には既に、一教室破壊出来る爆弾を作れたぐらいにね」
珍しく鮮明に覚えている。逃げ出す生徒や先生、警察や救急隊でごった返す中で、一人悠々と校門を抜けて来た女学生の姿を―――。
(あの時、もし声を掛けなかったら……いや)
仮令何度タイムスリップしても、私は必ず接触を図っただろう。珍奇な同族への興味と、抱えている倦んだ闇に惹かれて。
「年は取りたくないわね。配合を思い出すのに二、三日苦労したわ。これ、探知機にも引っ掛からないオリジナルの液体爆弾なの。一旦火が点いたらここにいる全員、即死は免れないわ」
「お願いです、ニー夫人!どうか、この子達だけは助けて下さい!そちらのお客様方も、キム君とは全く無関係な人達です!殺すなら、会社ぐるみの隠蔽に口を噤んだ私だけをどうか!!」
「勿論そのつもりよ。でもね、車掌さん―――」
冷笑する魔人。
「―――小学生が二人ぼっちで取り残されるって、とても可哀相だと思わない?」「っ!!?」「いい加減にしなよ、御老人。一般人を虐めてそんなに楽しい?」
思わず放った憤怒の問いに、旧友は小鳥のように細い首を傾げた。
「いいえ、全然。思考が完全に読めてしまう相手なんて、あなたやキムに比べれば蟻も同然だわ。ほら、似てるでしょ?仲間を辿って彼等、一ミリも違わず同じ道を歩くもの」
左手に銃を持ち替える。
「でも、どうして気付かないのかしら?遥か上で眺める、自分達を踏み潰すかもしれない脅威の存在に」
「虫だって忙しいんだよ。下らない事ばかり考えてる暇人に付き合ってられないぐらいには」
わざと大きく肩を竦める。
「時間無いんでしょ?ダベってないで、とっとと本題に入りなよ『赤の北極星』。あなたの最後の大仕掛けについて」
「……一定以上のスピードで駅構内のある地点に突入すると、線路下に埋めた爆弾が起動するわ。止めるには私を殺し、そこの停止レバーを倒すしか方法は無い。うふふ。さあ、どうするの?」
ボウッ!にしても万能な女だ。爆弾や木乃伊を自作するわ、魔術は使えるわ、おまけに『魔人眼』まで所持している。古い友人でなくとも、まず相手にしたくない敵だ。
サブマシンガンの銃身を小さく上下に振り、連続殺人犯は口端を上げた。
「キムも私も、あなたの登場だけは予測出来なかった―――ねえ、だから見せて頂戴。私達の、『魔人眼』を超えた未来を!!」




