73章 流星を追え!―――00:28:00
動力源を失い、置いて行かれた六両が見る見るスピードを落としていく。一方、余分を捨てた一号車、クランとジャックの乗った、はあっと言う間に地平線の向こうへと消えてしまった。
「クラン!!クラーン!!!」
愛しい名を叫ぶも、残された流星の尾は無情にも停車。一ミリも動かない鉄の塊と化した。
「やってくれたな、お前等の女王……で、どうするんだ?」
コックの質問に、最も背の高いセミアが腰に手を当てた。
「勿論、追い掛けるに決まってるよ!って言っても、夢世界を通って行けるのは私だけなんだよね……しょうがない。皆はここで」
「却下!私も連れて行きなさい!」
「駄目だって那美!本当に精神に悪いんだから!!」
「それぐらい気合で乗り切ります!!」
「強情!」
やんのやんの言っている女達を尻目に、他の面々も車両を降りる。
だが、本気でどうする?あの猛スピードでは、全速力で走ったぐらいじゃとても追い付けない。かと言って、こんな所に都合良く車が通り掛かる筈も、
ブロロォッッ!!「やっと追い付いたでクラン!いきなしあんな心臓に悪いモン送り付けてきおってからに!!」「あ!文牙お兄ちゃん!!」
線路の横道から現れたのは、野菜出荷用と側面に書かれたトラック。乗っていたのは二十代半ばの、長い黒髪をポニーテールにした男だ。運転席には紫色の髪の美女が座り、無表情にブレーキを踏んで車両を停止させた。
「久し振りだねお兄ちゃん!私だよ、セミア!!」
助手席に駆け寄る巨乳に一瞬訝しげな顔をした後、彼はニカッと笑う。
「おお、セミアかー!いやー、エライ別嬪さんになったなあ!美人過ぎてわいのおめめが潰れそうやわ!」
大袈裟な褒め言葉と同時に乳タッチ(おいコラ!?)をし、再会を喜ぶ義理のお兄さん。訛りの強い喋り方といい、どうやら姉妹や大父神とはまた全然違うタイプらしい。
「龍王様。積もるお話は後になさった方が」
巫女服の従者が冷静に告げる。
「おお、そうやった。セミア、大至急クランを呼んでや!なして野郎の腐りかけ生首を、それも料金こっち持ちにして送り付けてきおったんやあいつは!?そもそもあの仏誰や!?」
「残念ながら女王陛下は現在不在ですよ。何せたった今、我々を置いて向こうへ走り去った所ですから」
ラントの棘のある説明に、そう怒らんといてあげてな、あれでええ子なんやで、前言はどうしたと突っ込みたくなる弁解をした。
「聞いたな、紫卯?今すぐ発進や。相手は列車、かなりスピード上げんと追い付けんで!」
「この車両では馬力が足りない可能性もありますが、御命令とあらば」
「おう。障害物は特にあらへんから、ストレス発散と思てアクセル思いっ切り踏み込みや!」
へえ、中々良い上司振りだな。職業は何をしているんだ?それに龍王様って、まさかあの伝説の?
「ちゅー訳やセミア!それにお友達も、定員オーバーにならん程度に乗ってき!」
後方を示され早速俺と夢使い、イスラの三人が荷台に乗り込む。市場に行く途中だったのか、荷台の半分を真っ白な大根の詰まった箱が占拠していた。お陰でかなり狭い。
「イスラ様、くれぐれもお気を付けて!」
乗車を手伝ったラントに手を振り返し、四天使は沈鬱な面持ちで遥か前方を見やる。
「クランベリー……私は大馬鹿者です。まさかあなたが、あそこまで思い詰められていたとは……このままでは、任せて頂いた主に申し訳が立ちません」
つくづく真面目な奴だ。ん?真面目と言えば、アスの奴本当に何処行ったんだ?ったく、肝心な時に無能な衛兵め。
「おい、姉ちゃんアカン!もう重量オーバーや!!」「いいえ!!」
上司を置き去りに飛び乗った政府員が叫んだ。そしてタイヤに脚を掛けたまま、軽く十キロを超える箱をガンガン地上へ投げ落とす!(しかも片腕で!!)人外の暴挙に哀れ、箱のあちこちがグシャリと潰れる音がした。この分では中身もオシャカだろう。
「ふぅ。これぐらい退ければ問題無いですよね?」
そう呟き、悠々と空きスペースに立つ政府員。おや?お兄さん、心なしか握り締めた拳が震えているような、
「お、お、おま―――農家さんが丹精籠めはった、血と汗と涙の結晶を投げ飛ばすなやー!!!」
怒号とエンジン音が吠え、雲一つ無い真冬の青空へと響き渡った。




