71章 合流―――00:25:00
「良かったのかよ、あいつ等置いてって」
ジャックの問いには答えず、先程九号室から拝借したばかりの証拠品をポケットから取り出した。ブツが視界に入りギョッ!となる少年。
「お、おい!何でそんな物持って来てんだよ!?」
「安心しなよ、弾は抜いてあるから」
元空気銃のトリガーに指を掛け、上下にくるくる回してから差し出す。
「脅すぐらいは出来るでしょ。一応持っといて」
「あの婆さんに、んなハッタリ通じなさそうだけどな……ま、無いよりマシか。取り敢えずサンキューな」
それでも念のためスロットを確認する辺り、余程トラウマになっているらしい。家族を誤射するぐらいなら、自分は二の次か。つくづく甘い子だ。でも、悪くはない。
一号車、食堂。死体こそ片付けられているものの、絨毯には拭い切れなかった流血跡が生々しく残っている。車両中には鉄錆の臭いも漂い、余り長居したい場所ではなくなっていた。
そんな惨状の跡地の中心、最も血痕が染み付いた場所に『それ』はあった。
「何だ、こいつは?」「トラップだよ、下手に触らない方がいい」「げっ!マジかよ!?」
テーブルやカーテンレールに、数えるのも面倒な量のテープで張られたピアノ線の結界。糸の途中には高さも位置もバラバラな、合計四つの爆弾が吊るされている。無理に突破しようとすれば線が切れ、落下の衝撃でドカン!と言う按配らしい。
「チッ!こいつをちまちま解かねえ限り、ミア達の所へは行けないって訳か。おい、ちょっと待て……げ!?」
防衛線の始点と終点を目で追っていた少年が叫ぶ。
「おい!ピアノ線の両端、どっちも向こう側だぞ!?これじゃ手が届かねえよ!!」
全く、人質連れの分際でつくづく面倒な真似をしてくれたものだ。にしても感心するのはこの手際の良さ。まさか木乃伊作りの傍ら、家で必死に練習していたのだろうか?笑える。
「くそっ!こうなったら一回外へ出て、屋根から進むか」
「そんな面倒する必要無いよ。―――ああ、やっと来た」
「女王様!呼び出した上いきなり冷蔵庫に閉じ込めて、一体どう言うおつもり―――くしゅん!!」
ほうほうの体でキッチンから現れる衛兵。震える手で卓上のナプキンを取り、鼻をチーン!使用済みの紙を丁寧に畳んでポケットへと仕舞い、そこでようやく目の前の爆破トラップの存在に気付いた。
「そうカッカしないの。それにあっちは常温でしょ?私だって家臣の健康ぐらいちゃんと考えているんだから」
「如何にも謝罪感の無い謝罪は後にして下さい!何ですかこれは!?さっきは運転車へベアトリーチェさんとミアさんが行っていましたし、僕が冷蔵庫で凍えていた間に何があったんです?」
「うえ。あんたまさか、ずっと閉じ込められてたのか?」
「ええ。そこの女主人に深夜、手紙で呼び出されたんです。どうも突き飛ばされた時に不覚にも頭を打ったようで、ついさっきまで気絶、へくちっ!」
「そりゃ酷え……」同情の眼差し。「けど正直、あんたがそっちにいてくれて助かった。こいつの解除、頼めるか?」
「事情説明は」
「聞きながら解いてくれ」
真剣な眼差しを受け、アスは頷く。
「―――分かりました、何とかやってみます。ピアノ線は僕が外しますから、お二人は爆弾が落ちないよう支えていて下さい」
「OK」
「りょーかい」
半分は私の頭より高い位置にあるので、下二つをジャックに任せる。靴を履いたままテーブルに乗り、私が残りを掴む。組体操か着てない二人羽織状態に、目の前にいた衛兵はクスリと笑った。
作業半ばで経緯を話し終え、聡い家臣は納得の頷きを返した。
「そうですか……道理で先程から運行スピードが上がっていた訳です」
スッ、スッ、ス。回収の手がふと止まる。視線が泳ぐそんな時は、
「斜め右、いや左下だ」
「ありがとうございます」
つくづくパートナーにレイを選ばなくて良かった。あの落ち着きの無い、しかもプレッシャーに滅茶弱い皇太子では、あっと言う間にゲームオーバーを喰らっていただろう。
「七時の方向一メートル。線が裏に回っているよ。引っ掛けないよう気を付けて」
「了解です」
暖房が切れた肌寒い室内にも関わらず、男性陣の額にはうっすら汗が滲んでいた。
それでも約五分後。巻き取られたピアノ線と信管を抜かれた爆弾カルテットは、無事床へと着地した。
「御苦労さん。―――さて、いよいよ対決だな」
空の拳銃を構え直し、気合を入れる少年。だが緊張の作業を終え、震える膝をぽかぽか叩く衛兵の口から、気勢を挫く言葉が発せられた。
「本当に悪人なのでしょうか、彼女は……僕の前を歩きながら、ミアさんへ謝っていたんです。大人の都合に巻き込んで済まなかった、と」
「だからって善人な訳無えだろ、四人も殺しといて!あんた、あんな殺人犯に情けを掛けるつもりか!?」
「ですが」
「とにかく行くよ、二人共。到着までもう時間が無い」
口論をストップさせ、私は先頭に立って食堂を通過する。省スペースにして高機能設備の整ったキッチンを抜ければ、ゴールはもう目前だ。




