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流星疾走  作者: 夕霧沙織
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69章 名探偵の推理劇・後篇―――1:05:00



 最早正解を聞くまでもない。遺体を操った罪悪感と言う最大の憑き物が落ちた少年は、妹に支えられるまま椅子に座り直した。

「事件の真相はこう。犯人に指定された時間に、ジャックは通風孔から一号車の屋根へ出た。そして頭部付きの黒布に結ばれたロープを垂らし、ディナー中の私達を驚かしたの」

 ぶらぶら~、右手でジェスチャー。

「その後、本物の落下に合わせて縄を一気に緩め、窓の無い所まで横移動してから引き上げた。直後、列車は緊急停車。ジャックは闇に紛れ、へべ駅まで急ぎ走って証拠を郵送、隠滅した。ま、幸いそっちは私が阻止したけどね」

「何と大胆不敵な―――ん?ちょっと待って下さい。本物と言うのは、例の木乃伊ですよね?と言う事はジャック君、君はあれがどの部屋から墜落したか知っているんですか!?」

 政府員の詰問にだが、少年は口をもごもごさせた。

「いや。四号車より後ろってのは分かったんだが、暗い上に遠過ぎて朧げにしか……」

「六号車には殺人犯達がいましたね。しかもシッターの方はミアちゃんの監視のため、部屋に弁当を取っていました。矢張り彼女が犯行を」

 あくまで犯人死亡で収拾を付けたいのか、このアルバイターは。

「そいつは有り得んぞ小娘。彼奴等どころか乗客全員、誰も木乃伊など持ち込んでいなかったではないか」

「ぐっ!うう、選りにも選って先生に突っ込まれるなんて、一生の不覚です……」

「落ち込む事はありませんよ、那美さん」

 慰めてから首を傾げる栗花落さん。

「でも、摩訶不思議ですね。木乃伊さんは一体、夜まで何処にお隠れになっていたのでしょう?」

「しかもすっかり忘れていたが、そこの婆さんの旦那も行方不明だぞ?こっちはどう説明する気だ、このねぼすけ娘め」

「最初で行き詰ったなら、一旦他の事件を検証してみようか。さて、犯人になり得るのは誰でしょーか?」

 話題転換に成程、捜査責任者は頷いた。

「まず第二第三の殺人に関しては、ほぼ全員にアリバイがありませんね。犯行は深夜の上」

「鍵はジャックに開けてもらえば別に要らないしね。その時点ではまだ第二共犯者のシッターさんも生きていたし、オバサンの死体を運ばせる事も一応可能。この二つから絞り込むのは難しいんじゃないかな」

「かと言って第四の墜落事件の犯人は、別口のエセ手品師。となると、あと残るは昨夜の」

 パレットさんが口に出した瞬間、幼い兄妹の表情が凍り付く。

「うん。そして、それまで一切の証拠を残さなかった犯人は初めてミスを冒した」

 些細で単純な凡ミス。わざととしか思えない。


「そいつは、一体何だ……?奴は俺を殺しの道具にしやがったんだ!なあ、頼むから教えてくれよ!!」


 少年の絞り出すような嘆願に、私は淡々と次の一手を打つ。

「言葉は『呪』。セミアなら分かるでしょ、この意味」

 放たれた単語を噛み締め、義妹は何時に無く真剣に頷く。

「うん。人は時として発せられた一言、読んだ一文に強く影響を受けてしまう。場合に因っては長く長く、一生すらも……呪縛されるケースがある」

「そう。じゃ、それを踏まえて一つ問題」

 ああ……いよいよこの瞬間がやって来てしまった。しかし、何故だろう?この四日間、ずっと回避したいと思っていたこの場面。なのに、今の私は逆に―――自分でも空恐ろしい程楽しんでしまっている。そして同じ胸中の人間が、少なくともこの場にはもう『二人』いるのだ。

(お互い因果だね、全く)

 心の中で苦笑しつつ、三度始まりの鐘を鳴らした。


「―――さて、拳銃に『呪』を掛けて、無害な空気銃に仕立て上げたのは誰でしょう?」

 



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