68章 名探偵の推理劇・前篇―――1:15:00
「解決って……殺人犯は両方死亡しているんですよ?今更何を」
「ほう、面白い余興だな。聞いていてやるから、精々我輩達を楽しませろ、小娘」
そう促しつつも、ナイフとフォークは止めない肉食系中年。天晴。
「まあ。私も是非拝聴したいです、クランベリー様」
カップを置いて胸の前で合掌した女中に気を良くし、探偵は一礼した。
「じゃあ御期待に応えまして―――ビア親子、ターラー元弁護士、偽セレン・バービーことシッターさんは飛ばして、偽手品師マルコ・ジーニ。四人を手に掛けた真犯人、『北極星』はこの中にいる」
「ほ、本気で言っているのか……?」
困惑度MAXに呟くレイに、残念ながらね、私は小さく首を振る。
「一体誰なんですか!?いえ、しかしだとすると……」
「一から説明してあげるってば、那美。―――とその前にもう一人、『北極星』の共犯者を紹介しようか」
椅子の上で硬直する男子を腕で示す。
「近年稀に見る程勇敢で家族想いの少年、ジャック・ビーツェ君よ」
「っ!!!?」
「な、何ですって……!?」
「お兄ちゃんが……?う、嘘だよね!?お兄ちゃんが人殺しなんて、そんな酷い事!!?」
「………」
愛妹に詰め寄られ、辛そうに目を伏せる兄。
「大丈夫だよ、ミアちゃん。ジャックはあなたとお父さんを守るため、仕方なく手伝っただけ。直接手を下してもいない。安心して」
「私を……?」
「うん。昨日の朝あなたを救出に来るまで、ジャックはずっと列車の天井裏に身を潜めさせられてた。侵入は恐らく出発前、まだ車両が車庫に入っている時だろうね。通風孔は大人じゃ入れないサイズだし、発見される恐れはまず無い」
私の説明に、黒い瞳が大きく見開かれる。
「そう、トイレで髪飾りを返してくれたのもジャックだよ」
「シャワー室前の廊下に落としてたぞ」頬をポリポリ。「今度から気を付けろよ」
「やっぱりそうだったんだ……ありがとう、それと……ごめんね」
謝罪された少年は照れ臭げに頭をバリバリ掻き、視線を私の方へ向ける。
「ああ、あんたの言う通りだ女王。まだ暗い内に車で連れて行かれて、食料や着替えや……二人目のオバハンの時に使った、毒薬の小瓶が入ったリュックを持たされたんだ」
「まだあるでしょ?―――一人目の被害者、オットー・ビアの死体だよ」
「!!?」
「し、死体!!?」
一層の驚愕に包まれる大人一同。慌てて義妹が手を挙げる。
「で、でもくーちゃん!ジャックが成人男性を担ぐのはどう考えても無理だよ!?」
「そうですよ!大体、さっき自分で言ったじゃありませんか。通風孔に大人は入れないと!まさか布団のように圧縮したとでも言う気ですか!?」
「あ、それ素敵―――なんてね。そんな愉快な事する必要なんて無いよ。ねえ、レイ」
「な、何だクラン?そんなに見つめるなよ、照れるじゃないか……」
予想通り面倒臭い勘違いをされた。仕方ないなあ。
「オットー・ビアの死体ってさ、どんな服着てたか覚えてる?」
「へ?あ、ああ……そうだな。逆さまだった上、不気味でチラッとしか見なかったから正直あやふやだが、黒っぽい長袖だったような……」
「セミアやパレットさんは?」
「うーん。長袖って言うよりローブ……ううん、何か違うな」
「私はポンチョのようだと思いました。腕との境が無く、手首から先も見えなかったので」
ほう。気絶直前でそこまで観察するとは有能な乗務員だ。
「あれ、手隠れてたっけ?俺は見たような気がしたんだけどなあ」
「言われてみれば私も見なかったよ。単に角度が悪かっただけかもしれないけど」
「しかし遺体の服装が事件とどう関係あるのです?」
保護者が不思議そうに問う。
「大アリだよ、イスラ。因みに私も両手は見えなかった。と言う事は、一つの可能性が出てくる」
「勿体振らずにハッキリ言って下さい」
急かす裁判官にちちち、人差し指を振る。
「ちょっとは自分で考えなよ。はい、じゃあコックさん」
「俺か?クイズは苦手なんだが……そうだな、そもそも最初から腕が無かったとか?いや、ちょっと待て……おい、姉ちゃん!オットーの皮膚は何処まで見えた?そもそも何処まであった?腹、それとも脚までか!?」
凄まじい剣幕で問われ、たじたじしながらもセミアは記憶を探って答える。
「えーと……皮膚が見えたのは首の付け根までで、お腹ぐらいまでは確かにあったよ。でも落下した時は皆揃って、倒れたパレットさんの方を見てたから正確には―――あっ、分かっちゃった私!!」
やれやれ、ようやくか。日常的にミステリーを読むから、もっと早く気付いてもおかしくなかったのに。
「じゃあ、早速答え合わせしようか」
「うん!せーの!!」
同時に息を吸った姉妹の声が見事にハモる。
「「私達が見たオットー・ビアの死体は、頭部に布を被せられた物だった!!」」




