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流星疾走  作者: 夕霧沙織
69/82

68章 名探偵の推理劇・前篇―――1:15:00




「解決って……殺人犯は両方死亡しているんですよ?今更何を」

「ほう、面白い余興だな。聞いていてやるから、精々我輩達を楽しませろ、小娘」


 そう促しつつも、ナイフとフォークは止めない肉食系中年。天晴。

「まあ。私も是非拝聴したいです、クランベリー様」

 カップを置いて胸の前で合掌した女中に気を良くし、探偵は一礼した。


「じゃあ御期待に応えまして―――ビア親子、ターラー元弁護士、偽セレン・バービーことシッターさんは飛ばして、偽手品師マルコ・ジーニ。四人を手に掛けた真犯人、『北極星』はこの中にいる」


「ほ、本気で言っているのか……?」

 困惑度MAXに呟くレイに、残念ながらね、私は小さく首を振る。

「一体誰なんですか!?いえ、しかしだとすると……」

「一から説明してあげるってば、那美。―――とその前にもう一人、『北極星』の共犯者を紹介しようか」

 椅子の上で硬直する男子を腕で示す。

「近年稀に見る程勇敢で家族想いの少年、ジャック・ビーツェ君よ」

「っ!!!?」

「な、何ですって……!?」

「お兄ちゃんが……?う、嘘だよね!?お兄ちゃんが人殺しなんて、そんな酷い事!!?」

「………」

 愛妹に詰め寄られ、辛そうに目を伏せる兄。

「大丈夫だよ、ミアちゃん。ジャックはあなたとお父さんを守るため、仕方なく手伝っただけ。直接手を下してもいない。安心して」

「私を……?」

「うん。昨日の朝あなたを救出に来るまで、ジャックはずっと列車の天井裏に身を潜めさせられてた。侵入は恐らく出発前、まだ車両が車庫に入っている時だろうね。通風孔は大人じゃ入れないサイズだし、発見される恐れはまず無い」

 私の説明に、黒い瞳が大きく見開かれる。

「そう、トイレで髪飾りを返してくれたのもジャックだよ」

「シャワー室前の廊下に落としてたぞ」頬をポリポリ。「今度から気を付けろよ」

「やっぱりそうだったんだ……ありがとう、それと……ごめんね」

 謝罪された少年は照れ臭げに頭をバリバリ掻き、視線を私の方へ向ける。

「ああ、あんたの言う通りだ女王。まだ暗い内に車で連れて行かれて、食料や着替えや……二人目のオバハンの時に使った、毒薬の小瓶が入ったリュックを持たされたんだ」

「まだあるでしょ?―――一人目の被害者、オットー・ビアの死体だよ」

「!!?」

「し、死体!!?」

 一層の驚愕に包まれる大人一同。慌てて義妹が手を挙げる。

「で、でもくーちゃん!ジャックが成人男性を担ぐのはどう考えても無理だよ!?」

「そうですよ!大体、さっき自分で言ったじゃありませんか。通風孔に大人は入れないと!まさか布団のように圧縮したとでも言う気ですか!?」

「あ、それ素敵―――なんてね。そんな愉快な事する必要なんて無いよ。ねえ、レイ」

「な、何だクラン?そんなに見つめるなよ、照れるじゃないか……」

 予想通り面倒臭い勘違いをされた。仕方ないなあ。

「オットー・ビアの死体ってさ、どんな服着てたか覚えてる?」

「へ?あ、ああ……そうだな。逆さまだった上、不気味でチラッとしか見なかったから正直あやふやだが、黒っぽい長袖だったような……」

「セミアやパレットさんは?」

「うーん。長袖って言うよりローブ……ううん、何か違うな」

「私はポンチョのようだと思いました。腕との境が無く、手首から先も見えなかったので」

 ほう。気絶直前でそこまで観察するとは有能な乗務員だ。

「あれ、手隠れてたっけ?俺は見たような気がしたんだけどなあ」

「言われてみれば私も見なかったよ。単に角度が悪かっただけかもしれないけど」

「しかし遺体の服装が事件とどう関係あるのです?」

 保護者が不思議そうに問う。

「大アリだよ、イスラ。因みに私も両手は見えなかった。と言う事は、一つの可能性が出てくる」

「勿体振らずにハッキリ言って下さい」

 急かす裁判官にちちち、人差し指を振る。

「ちょっとは自分で考えなよ。はい、じゃあコックさん」

「俺か?クイズは苦手なんだが……そうだな、そもそも最初から腕が無かったとか?いや、ちょっと待て……おい、姉ちゃん!オットーの皮膚は何処まで見えた?そもそも何処まであった?腹、それとも脚までか!?」

 凄まじい剣幕で問われ、たじたじしながらもセミアは記憶を探って答える。

「えーと……皮膚が見えたのは首の付け根までで、お腹ぐらいまでは確かにあったよ。でも落下した時は皆揃って、倒れたパレットさんの方を見てたから正確には―――あっ、分かっちゃった私!!」

 やれやれ、ようやくか。日常的にミステリーを読むから、もっと早く気付いてもおかしくなかったのに。

「じゃあ、早速答え合わせしようか」

「うん!せーの!!」

 同時に息を吸った姉妹の声が見事にハモる。


「「私達が見たオットー・ビアの死体は、頭部に布を被せられた物だった!!」」



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