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流星疾走  作者: 夕霧沙織
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67章 ブレックファーストタイム―――1:35:00




「あ、やっと来たくーちゃん!こっちこっち!!」


 流石に昨夜の今朝で食堂は使えなかったらしい。乗客達は全員、二号車のラウンジで朝食を摂っていた。

 カウンター席に三人並ぶ内、一番背の低い少女も手を挙げる。

「あ、クランお姉ちゃんおはよう。先に食べてるよ」

 蜂蜜とバターたっぷりのパンケーキを頬張りつつ、満面の笑みで挨拶。暗示が効いているのか、沈鬱な影は大分晴れていた。

「おはよ。あ、そう言えばまだ感想聞いてなかったね。ちゃんと茹ってた?妙齢女性の出汁入り温泉卵」

「?うん、ばっちりトロトロだったよ。ありがとう、お姉ちゃん―――はい。ボビーも一口どうぞ」

「くーん❤」

 パンケーキの一切れを頬張り、ヘリのプロペラ並に尻尾をブルンブルン回すラフ・コリー。旅行が終わったら、しばらくはダイエット決定だな。と言うか皆餌あげ過ぎ。

「よう。お前等が最後だぞ、女王様」

「おはよ、ジャック。昨日は良く眠れた?」

「……まぁ、そこそこは」

 そっぽを向く少年。立ち上がった義妹が顔を近付け、耳打ちする。

「封印しようと思ったんだけど、凄く嫌がったの。だからこの子には、まだ何の治療もしてない」

「だろうね」

 本能的危機を覚えたのだろう。記憶が弄られ、真実から遠ざかってしまう事に。


「おい、遅いぞコック!さっさと持って来んか!」「はいはい、よっと」


 ドンッ!奥のペアテーブルに山盛りステーキが置かれ、朝にはヘビー過ぎる脂臭さがラウンジ中に漂い始める。その根源にナイフを入れ、心底嬉しげにがっつくベルイグおじさん。そんな彼の隣で微笑み、女中はコップにお冷を注ぎ足す。

「長時間の運転御苦労様でした、旦那様。帰ったらまずはゆっくり休んで下さい」

「そうだな。ここの飯も悪くはなかったが、いい加減飽きた。矢張りお前の料理が一番だな、栗花落」

「そりゃ、あんだけ肉ばっかバカスカ食ってりゃな……で、女中さんは紅茶だけでいいのか?旅行中もあんま食べてなかったみたいだが」

「はい、私は元々少食ですから。御心配には及びません」

「そうか。お、お仲間が戻って来たぞ」

 私達の前にいた那美が向かいのペア席に座り、嫌そうに手で空気を扇ぐ。

「朝からよくそんな物食べられますね。隣のこっちが胸焼けしそうです」

「ふん、腕っ節の割に胃弱な小娘め」ガブリ。「フン、ねぼすけ娘も一緒か。来たならさっさと注文せんか。九時には到着だぞ?」

「生憎お腹が空いてないの。降りてからにするよ。ベアトリーチェは?」

「なら私もそうするわ。―――ああ、お嬢さん。悪いけどホットコーヒーを二つお願い」

 給仕のパレットさんを呼び止め注文。その後、車両中央のペア席に座る。

「よう、クラン。最終日も良い天気だな」

 向かいの窓際にはレイとKK、それにラントとイスラが並んで腰掛けていた。こちらのブレックファーストは、定番のトーストとオムレツ。兄妹同様早目に来たのか、全員既にほぼ食べ終わっていた。

「良い部誌が書けそう、KK?」

「はい!写真も沢山撮れましたし、これもクランベリーさん達のお陰です。四日間、本当にお世話になりました!!」

「いやいや、こっちこそ色々助かったぜ。ありがとなKK」

 社交辞令の応酬の奥で、困惑の表情を浮かべながら米神を人差し指で叩く四天使。そんな連れを心配げに見つめ、信仰者は最後の一口をもぐもぐ。

「電波不調?」

「ええ。お気遣いがあったのか、定期通信は一昨々日の夜を最後に切れていたのですが……」コンコン。「矢張り応答がありません。まだお休み中なのでしょうか?後でまた試みてみます」

「心配ですね」

「いえ。流石に主の身に危機があれば、我々へ即座に異変が伝わります。単なる到着報告ですし、問題ありませんよ」

 ふーん、あの過保護が一昨日からねぇ……ま、いっか。


 カチャッ。「お待たせしました。どうぞ」「ありがとう」「ん」


 運ばれてきた香り高い漆黒の液体に口を付けつつ、私はラウンジをゆっくりと見回した。

 冬の朝日に照らされ、あちこちで乗客達に因る穏やかな歓談が行われている。そしてようやく訪れた平和な光景を、眩しげに見つめる乗務員の男女。豪華寝台列車に相応しい、優雅で幸福な時間だ。

「そういやクラン。アスの奴見なかったか?」

「私達が起きた時にはもういなかったのです。誰に訊いても所在を知らないようで」

「まさか、アス君……城での扱いが酷過ぎて、戻りたくないばかりに脱走を?」ボソッ。

「おい、今のは聞き捨てならないぞラント!?」

「私は優しくしてるよいっつも!!」

「くーん!?」

 一斉に上がる三種類の抗議。ほう、クオル王国唯一人の衛兵だと言うのに、皆そんなにこき使っているのか。揃いも揃って酷い家臣共だ。

「何一人傍観しているのですか、クランベリー。ラントが言っているのは半分以上あなたの事ですよ」

「あら、おほほ……まぁ列車はずっと走りっ放しだし、到着までには戻って来るでしょう」

 クイーンらしく笑って場を和ませ、横目で相方の様子を窺う。本日還暦を迎えた友人は、微笑しながら流れゆく草原を眺めている。―――そこで不意に目が合い、最初の夜と同じくウインクされた。 

(あくまでもスタートボタンは押し付けるスタイルなんだね……やれやれ)もう今更だろうに。

 半分残っていたコーヒーを一気に飲み干し、椅子から立ち上がる。雰囲気の変化を察知したのか、場の全員の動作が止まった。

「クラン?」

 レイの呼び掛けには応えず、フロア中央に爪先立ち。これ以上無い程注目を浴びる中、私は口を開いた。


「生憎二人いないけど、時間も押してるし始めようか―――この奇怪な連続殺人事件の解決篇を、ね」




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