6章 若き案内人―――66:59:00
「行ってらっしゃーい!!」「良い旅をー!!」
スターレイン二号車、カフェバー併設のラウンジ。その窓は冬の寒気を物ともせず全開放されていた。
乗り場に立つ大勢の見送り人が、声援と色とりどりの紙テープで乗客全員の出発を祝福する。それに対し私達は上り側、一号車寄りの所で手を振って応えた。
「あ、姉さんだ!おーい!!」「リリアさーん!」「お土産楽しみにしててねー!!」「くううん!!」
熱烈な別れの挨拶が聞こえたのだろう。数秒で通過した皇女はやけに気恥ずかしそうだった。
「羨まし過ぎるぞ、部長ー!」「このブサ眼鏡ー!!」「次の部誌は責任持って一人で書けよなー!!」
反対から聞こえた愛情混じりの罵声に振り返る。私達の背後には、確かにお世辞にもイケメンとは言い難い男子学生が一人立っていた。
分厚いレンズの黒縁眼鏡に、セミアの物より一回り小さい一眼レフカメラ。背負った深緑色のリュックサックからは大学ノートと、「列車の歴史」なる五百ページはありそうな本が顔を覗かせていた。
「皆、言いたい事ばっか言いやがって―――ばっきゃろー!僕の留守は頼んだぞー!!」
部員達に怒鳴り返す、所々そばかすの浮いた笑顔。これぞ青春の一ページ、を絵に描いたような感じだ。
そうこうしている内にスターレイン号はホームを抜け、ひたすら草原が広がる大地を疾走し始める。最初の目的地は観光街ヘルン。到着は翌朝七時の予定だ。
「そっちの見送りは大勢だね、部長さん。えへへ、ちょっと羨ましいな」
車掌の誘導で乗客達が各々の部屋へ帰る中、学生へ気さくに声を掛けるセミア。そのはみ出た巨乳にまず目が行くのが自然だが、彼は真っ直ぐ義妹の顔を見上げた。変人確定!
「ええ。我がセヴォイ高等学校鉄道部にとって、今日は特別な日ですから。あなた方こそ随分声を張り上げていましたが、さぞや大勢いらっしゃったんでしょう?」
「いえ……一人、です」衛兵が頭を下げる。「済みません。つい興奮してしまって」
「いえいえ!あぁ、無理も無いですよ。僕達は今、宇宙で最初にこの豪華寝台列車へ乗っているんですから!」
両拳をガッチリ握り締め力説。暑苦しい若人め。
「でも、よく四枚もチケットが取れましたね。僕達は連日徹夜で千枚葉書を書いて、やっと一枚ゲット―――何だ、取材の記者さんだったんですか。てっきりあなた方もコネのある人達かと」
「って事は、そう言う人も乗っているんだ。北斗社の株主さんとか?」
「僕もさっき乗ったばかりでよく知らないんですが、多分。あと、特別ゲストとして連合政府の偉い方も乗車しているらしいです。しかも七号車の最後尾、ロイヤルスイートルームに」
連合政府の……ねえ。既に何となく予想出来てしまった自分が恐ろしい。
「流石良く調べてるね、部長さん。名前は?」
「ケビン・ケイブ、皆からはKKと呼ばれる方が多いです。記者さん達は?」
自己紹介の間に車両を移動。列車の進行方向とは逆に歩き、全員の部屋がある五号車へ。
ゴン!「う!いたた、またやっちゃった……」
車両の端、天井が一段低くなった箇所(それでも二メートル以上はあるのだが)で又もや頭をぶつける長身巨乳女。左右の狭さはともかく、この高さはただでさえ考え事の多い義妹にとってかなり危険だ。
「大丈夫ですか、セミアさん?」
「おいおい、血とか出てないよな?後でクランに診てもらえよ」
男性陣の心配に、まだ痛むのかコクコク頷いて答える。
「―――成程。セミアさんにクランさん。レイさんとアスさんと、それからボビーですね。覚えました。では―――これから四日間、隣人同士仲良く旅を楽しみましょう!」
促されるまま順番に握手。今時の若者には珍しい礼儀正しさだ。恐らく実地調査でよく年配者と接触しているせいだろう。ま、『それだけ』でもないんだろうけどね。
取り敢えず荷物を置くため、一旦彼と別れる。その後私達姉妹とボビーは七号室、レイ達は横の六号室へ入った。




