5章 再会―――67:15:00
シャッターの数秒後。初発車を待つギャラリー達の列がサッ!と割れた。
人混みの間を縫うように現れたのは、黒い毛皮のフードを目深に被った男性と、彼を乗せた車椅子を押す老女だ。見た所、年は還暦前後か。どうやら彼女達が、先程車掌の言っていた最後の乗客のようだ。
「あ!」
当然彼も気付いたが、現像途中のカメラを手放す訳にもいかない。困った彼に大股で歩み寄り、ありがと車掌さん、持ち主は思い切り下目使いににっこり。
「どういたしまして。―――ええと。ベアトリーチェ・フェン様と、グラシア・フェン様でいらっしゃいますか?」
素早く駆け寄った責任者に、婆さんは皺の少ない口元を綻ばせた。
「はい。済みません、慣れない道で迷ってしまって。もしかして私達のために、出発を待って頂いていたのかしら?」
「それは大丈夫です。まだ発車まで三分程ありますから。―――御主人は、今日はお加減でも悪くなされて?」
顎まで隠れた顔を下から覗こうとすると、見ない方が宜しいですよ、夫は昔から他人に寝顔を見られると一日中不機嫌で、やんわり警告した。
「あ、ああ済みません。当列車は翌朝までノンストップですので、もし御病気でしたらと思いまして」
「心配をお掛けしてごめんなさい。しばらくすれば起きますから。ええと―――はい、チケットはこれで宜しかった?」
「はい、結構です」
ペタン、ペタン。捺印し終わった彼は、お疲れでしょう奥様、お部屋まで御案内致します、サービス精神から車椅子の持ち手を掴もうとする。だがその時、意外な所から声が上がった。
「―――任せられない感じ、ベアトリーチェ?」
さっきより幾分トーンの上がった女王陛下の問い掛けに、老女は零れ落ちんばかりに目を見開き―――微かに震える唇で、こう答えた。
「ええ。それに相変わらず、ディーさんは見ていないわ―――四十七年振りね、クラン。ずっと、ずっと会いたかったわ……」




