4章 いざ、流星へ―――67:20:00
「ああ、やっと着いたー!」
セヴォイ市は惑星こそクオルと同じ“碧の星”だが、故郷のほぼ真裏に位置していた。そのため当然土地勘は皆無。お陰で馬車の乗り換えに一度失敗し、目的地の駅への到着時刻は十三時四十分だった。チケットには発車前に車内案内をするので、三十分前には乗車するように書いてある。つまり、微妙な遅刻だ。
「見送りありがとな、姉さん。このまま真っ直ぐ帰るのか?」
駅構内、最東。報道陣や見送り、そして歴史的瞬間を一目見ようと人々が集まる七番乗り場には現在、明らかに他と雰囲気の違う七連車両が停留していた。
満天の星空を描いた車体の側面には、チケットと同じ金の筆記体の車両名が刻まれていた―――トワイライト・スターレイン。これから俺達が四日間を過ごす、宇宙初の豪華寝台列車だ。
「そうね……まだ面会時間に間に合うから、出て来たついでにキイスの顔を見て来るわ。アス、何か伝えておきたい事はある?」
三人分の荷物を両肩に抱えた(いや、決して虐めとかじゃないぞ!?すっかり忘れているかもしれないが、こいつは一応囚人だ。だから姉妹の分を運ぶのは当然!)衛兵は、刑務官さんが元気なら、僕からは特にはありませんよ、普段通り馬鹿丁寧に返答した。
「そう……大丈夫よ、きっとすぐに出て来られるわ」
「ええ、分かっています。リリアさんこそ、気を付けて帰って下さいね」
「心配してくれてありがとう。えっと、帰りは明々後日の朝九時だったかしら、セミアちゃん?」
「予定ではね。ま、お昼は適当に食べて帰るから、晩御飯の準備だけしておいて」
いつもの胸が開いた薄手の蒼いドレスを纏い、出版社から借りたポラロイドカメラを首から提げた夢使いが答える。ネガの単価は高いが、数十秒で写真が出来上がると言う優れ物だ。そしてポケットから覗いているのは、この取材用に買ったペン付き手帳。これでボイスレコーダーでもあれば、もう完璧なフリージャーナリストだ。
「分かったわ。しばらく寂しくなるわね。!そうだ、紙テープ!!」
そう叫び、慌てて駅舎内の売店まで引き返す姉。その背を見送りつつ、俺達は件の七番乗り場へ向かった。
「あ、可愛い!」
乗車口前では車掌と、もう一人の乗務員(?)が俺達を出迎えてくれた。
同僚と一緒の制服を着ているのは身長百センチ程で二頭身、えらく惚けた表情をしたぬいぐるみだ。一丁前に胸に掛けた名札には「埴輪車掌」とある。鉄道会社のマスコットか?
ふと視線を感じ隣を見ると、クランが食い入るようにぬいぐるみを見つめていた。これまで付き合ってきたが初めて見る反応だ。ははぁ、こう言うゆるキャラが好きなのか。意外と可愛い所あるな。
「へえ。パンフレットには書いてあったけど、ちゃんと実物も作ってあるんだね」
「ええ。埴輪車掌は我が北斗社の創設以来のマスコットキャラクターでして、こうした特別行事には必ず出勤なされているんですよ」
答えたのは勿論、四十代後半の人間の車掌だ。帽子を取って挨拶すると、微かに白の混じった焦げ茶色の髪が顕わになった。初の一大イベントに緊張しているのか、目の下にうっすら隈が出来ていた。
「失礼、もしかして幻灯社の方ですか?」
「はい、遅くなってごめんなさい。もしかして私達が最後なのかな?」
ペタペタ、ペタペタ。四人分のチケットに今日の日付スタンプを押してもらいつつ、雑誌社代表は尋ねた。
「いえ、まだ御夫婦が一組お着きになっていません。街で見かけませんでしたか?」
「いや、知らないな。そうだセミア。折角だし、待っている間に何枚かここで撮っとけよ―――そうだ。クランも埴輪車掌さんと一枚どうだ?」
俺のさり気無い提案に、彼女は右の眉を軽く上げる。その後、そうね、と呟いてトコトコ。左隣で寸胴の首の後ろをむにむに触り、俺達を手招く。
「記念撮影でしたら、私が撮影係をしましょう。カメラは……ほう、随分年代物のポラロイドですね。しかも手入れが行き届いている。これなら良い写真が撮れそうだ」
俺は自然を装い、少女の横へ並ぶ。残る二人は車掌を挟んで反対側へ。セミアの高身長に合わせ、車掌がファインダーを覗きつつ大分後ずさってピントを調整する。
「ではいきますよ。皆さん笑って―――はい、チーズ!」パシャッ!




