7章 万里の眼―――66:50:00
七号室はソファとベッドが併用のツインルーム(因みにスターレイン号で一番格下の部屋)だが、それ以外の設備は高級ホテルにも負けない物だ。
部屋手前には如何にも高価そうなドレッサーと書き物机で、奥が寝床。現在はソファに変形されている上には、冬の寒さに嬉しい羽毛布団が畳んで置いてある。
椅子同士は離れていて、中間には目覚ましとランプスタンドの据え付けられたサイドテーブル。少し目線を戻した左手には、容積から言って二枚程度しか掛けられなさそうだがクローゼットもあった。何より素敵なのは、全てのインテリアが厭味でなく統一されて洒落ている事だった。
「わあ!凄い部屋だね、くーちゃん!」ポーン、ドサッ!
「分かったからソファにダイブしない。で、どっちに寝る?」
向かって右側には窓。薄手のカーテンはあるものの、朝日が差し込めば眩しさですぐに目覚めてしまいそうだ。
「私が右行くよ。くーちゃんはゆっくり寝てたい派でしょ?」
「御明察。流石我が妹」
「ふふん」布団をもふもふ。「明日は早起きして日の出を撮りたいからね。今日の内にKKと相談して、しっかりカメラの位置取りも決めておかないと」
「くーん!」
ボフッ!セミアの真似をして、ラフ・コリーが左の布団に鼻から突っ込む。もふもふもふ。気持ち良さそうな光景に、反射的に起こった眠気から欠伸が出た。
「ふぁ……で、これから夕食までどうするの?あと四時間もある」
「私は早速取材に行くよ。くーちゃんは……もしかしてもうおねむ?緊張して昨日あんまり寝てないとか。それともまさか、酔っちゃった?」
言って鞄をゴソゴソ。取り出したのは蜂蜜飴の袋だ。それが効くのは気圧が変化する宇宙船だよ、と思いつつ有り難く受け取る。
「全然。でもありがと」
「平気なら、散歩がてら一緒に歩こう。そうだ、折角だからベアトリーチェさんの部屋にも寄ってみようよ。友達なんでしょ?」
「昔半日だけ遊んだ、ね」
こんな所で会うなんて奇縁もいい所だ。しかも、
「あのお婆ちゃん、何か不思議な感じがする。まるで」
「私みたい?」
「!?う、うん、そう!でもどうして……!?まさか!」
聡い義妹は、ピンクのふっくらした唇を怖々と開いた。
「あの人も……くーちゃんと同じ『万里眼』を?」「何、それ?でも悪くないネーミングだよ、採用」
実際出会うまでは想像もしていなかった。人心も含め、ありとあらゆる要素を無意識に収集分析し、常人には凡そ理解不能な速度と絶対的精確さで結論を出す異能。それ故感情の殆どを犠牲にしてしまう力が、他の人間にも発現する可能性を。
「でも彼女、普通に車掌さんと話していたけど」
「フリに決まってるでしょ。六十年近く現世で生きてれば、誰だって嫌でも女優顔負けになる」
「浮世離れしたままのくーちゃんとは真逆って訳ね。で、どうするの?ゆっくり昔話するなら、取材はアスにでも付き合ってもらうけど」
「ううん。四日もあるんだし、そう焦らなくても大丈夫だよ。それに今は色々忙しいみたいだから」
言いつつ着替えの入った鞄をベッド脇へ置き、ポケット内の貴重品を確認。お土産代には充分過ぎる金額だ。車内販売が来たら、試しに飲み物でも買ってみようかな。
「?ああ、旦那さんの世話でって事?死体みたいにピクリとも動かなかったもんね、あの人。でも動けない程の重病なら、旅行になんか来たりしないだろうし」
「良い観察眼」
「?」
「そろそろ行こうか、丁度ガイドも来たみたいだしね。―――どうぞ、KK」




