63章 最後の夜―――12:00:00
時計が九時を指す頃、義妹は一度部屋へと戻って来た。
「二人の容態は?」
「取り敢えず応急処置は終わったよ。大丈夫。二人共、見た目程にはショックを受けていない。直前まで加害者だったし、正当防衛も充分適用される状況だったから……御免、流石に自分でも不謹慎な発言だった」
頭を下げる。
「一応、今夜は車掌さんと一緒に付き添っているよ。だからボビー、私のベッドで寝ていいよ」
寝巻きに着替えながらの提案に、狭さも忘れはしゃぎ回るラフ・コリー。騒々しい。尻尾をむんずと掴み、無理矢理黙らせた。
「きゅうん!」
「そう言えば六号室にラント達が来てるよ。折角だからくーちゃんも行ったらどう?最後の最後で大変な事になっちゃったけど、もう明日の朝には降りるんだし思い出作りに」
「ん……気が向いたらね」
義妹が再び出掛けた数分後、外鍵を掛け部屋を出る。隣をノックすると、既に赤い顔のレイが出迎えた。
「おう、クラン!まあ狭いけど座れよ。皆で昼間買ったワインを飲んでいる所なんだ。にしても腹減ったなあ、早く弁当来ねえかな」
「御免、無理。今夜はベアトリーチェの所へ行くから、ボビーを預かっておいてくれる?」
「あ……ああ、そうだな……いいぜ。他ならぬクランの頼みだしな」
明らかに落胆しながら、長毛の頭を撫で撫で。
「ほら、入れよボビー」
「くーん……」
念願の一匹ベッドを失った上、間違い無く窮屈であろう室内を覗き、綺麗に耳を垂れ下げた相棒。流石に犬だけ部屋に残す訳にはいかないでしょ?諦めなさい。
「レイ、誰が来たんですか?―――ああ、クランベリー」
顔を出した男三人にも留守の旨を話すと、そうですね、保護者は頷いた。
「犯人は二人共死亡しましたし、流石にもう安全でしょう。旧友同士、心ゆくまで昔話をしてきなさい」
「うん。じゃお休み、四人共」
そう挨拶し、続いて反対側の隣室へ。男子学生はドアを薄く開き、眠たげな片目だけを出した。
「休憩中御免ね、KK。私達、今夜は部屋を留守にしているから。何かあったら三号室を訪ねてきて」
「分かりました」
素直に頷く。
「聞きましたよ。最後まで散々だったそうですね」
「本当にそう思ってる?」
「は?」
首と共に傾いた眼鏡、その奥の緑色を覗き込む。
「忘れてるよ、うっかりさん」「―――あぁ、そりゃどーも御丁寧に」
一瞬未成年らしからぬ不敵な笑みを浮かべ、彼はそう言ってドアを閉めた。




