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流星疾走  作者: 夕霧沙織
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61章 奇術対決―――14:40:00




「今から私達が本物のマジックを見せてあげるよ。ベアトリーチェ、手伝って」「OK。ちょっと失礼」「あっ!?」


 堂々と歩み寄る老婆に神速の早さで装備を盗られ、慌てふためくMr.R。友人の手でそれらを身に付けた女王は、にっこりと杖を揮った。


 ポンッ!「わぁっ!?」


 破裂音と共に、待ってましたとばかりに先端から色とりどりのテープと紙吹雪が飛び出す。用済みの道具を仰天する車掌に放り投げ、続いて目深まで被ったシルクハットを掴んだ。

「あーぶらかたぶらー、っと」

 呪文を唱えて逆さにし、いとも容易くトランプの箱を取り出す。そして助手に開封を命じ、又もポイッ!

「はいはい」

 特に嫌がる素振りも無くキャッチし、中身を取り出す婆さん。華麗な手付きで扇状に広げ、素早く目線を走らせ点検。

「特に異常無しよ。極々普通のトランプだわ」

「ありがと―――じゃあミアちゃんと、ついでに偽者さん。どれでも好きなのを引いて。当ててあげるから」

 おいおいおい!?いきなり何か始めたと思ったら、選りにも選って本職に喧嘩売る気かよ!?こっちは一言も聞いてないぞ!? 

「くーちゃん……」

 突然の事態に、俺と同じ怒りに拳を戦慄かせるセミア。ピンクの唇をキューッ、左右に引き絞り、席を立って抗議の声を上げた。


「ベアトリーチェさんだけなんてズルいズルい!私もお手伝いするー!!」ずるっ!そっちかよ!?


 ズンズン通路を進んできた義妹に、じゃ一応もう一回確認して、返って来たばかりのトランプを今度は手渡し。こちらは手付きこそやや覚束無いが、仕舞われていた箱まで点検する念の入れようだ。

「ああ、ふーん……成程ね」

 目敏い奴め、早速何か気付いたようだ。しきりと頷いた後、テーブル上に表を向け、横一列に並べて広げる。 

「じゃあ二人共、どうぞ。くーちゃんは見ないように後ろ向いてて」

「出来た妹で助かるよ。じゃ、お言葉に甘えて」くるっ。

 観客一同乗り出して見守る中、少女が指差したのはハートの五。一方ロイド氏は渋面のまま、中々選ぼうとしない。

「どうなさったの、マジシャンさん。まさか―――クランの挑戦をお受けにならないつもり?」

 意地悪げにニヤリ。

「高名なMr.Rらしくない態度ね。トレードマークのマスクも忘れているようだし、まさかクランの言う通り」

「い、いや!?ちょっと優柔不断の悪い癖が出ただけだ!こいつにする!!」

 ムキになって示したスペードのAを確認し、助手二号は次の指示を仰ぐ。

「じゃあ選んだ二枚を抜き出して、表にこれでそれぞれ自分の名前を書いて」

 そう言って、後ろ手に青いサインペンを渡す。先に受け取った手品師は、震える手でカードの上半分に。ミアちゃんも左上の隅っこにさらさらと署名した。

「へー、ミアちゃん字巧いね」

「ああ、うちの学校で一番なんだぜ。こないだも賞状貰ったんだ、なミア?」

「お兄ちゃん!?は、恥ずかしいから、あんまり言い触らさないでよ……」

 耳朶まで真っ赤にし、小声で抗議する少女。別に俺はロリコンではないが、可愛い子だなあ。

 印入りの二枚は再び山に戻され、二人の助手に因って念入りにシャッフル。そして指示通り元の箱に戻し、振り返ったクランへ手渡された。 

「さて、じゃおまじないを掛けるね」

 彼女は指で表面を撫でながら、まーさわーには、まーさわーには……妙なイントネーションの呪文を唱える。そして縦向きに開封し、約十センチ上で抓み出すような仕草を始めた。すると、


 する、するする……。「な、何だと!?」「トランプが勝手に出て来たぞ!!」


 半分顔を出したカードを引き抜いた老婆は確認後、恭しく両手で少女へ差し出す。「はい、あなたのよ。記念にどうぞ、お嬢さん」

「ありがとう、お婆ちゃん!」

 宇宙に一枚きりのハートの五を高々と掲げ、得意満面に家族へ見せびらかす。

「良かったな、ミア」

「うん!」

「おい、待て。俺が選んだカードはどうした?まだ出てないぞ」

 ダラダラ脂汗を流しながら、まさか失敗か?これだから素人は……精一杯の虚勢を張る。それに対し、クランは首を傾げつつ余裕綽々だ。

「あれ?変だなあ。ちゃんとミアちゃんのカードと一緒に出したよ。もしかして見えなかったの?」

 何だって?

「はぁっ?何を寝惚けた事言って」

「でなきゃ手違いだね」

 ぽん、と手を打つ。

「手違い……だと?」

 眼球をひっきりなしに動かし、すっかり混乱の極み。完全にクランのペースに乗せられてしまっている。


「そう。私言ったよね、『自分の』名前を書いてってさ。ルールを破ったから、きっとカードが怒っちゃったんだよ―――」


 初めて見る冷酷な笑みに、背筋がゾッとなった。


「だってほら―――あんな高い所まで飛んじゃってるもの」「っ!?う、うわあああああっっっ!!!!?」


 シャンデリアのほぼ中央に張り付いた、スペートのエース。だが、明らかに箱へ仕舞われる以前とは様子が違っていた。書かれていた筈のサインが消え、代わりに赤黒い、まるで血液のような色で別な署名がなされている―――醜悪なマーダー(殺人鬼)、マルコ・ジーニ、と……。



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