60章 ラストディナーショー―――15:00:00
「―――えー、色々アクシデントも御座いましたが、無事ここまでの行程を終えられた事を乗務員一同、御客様方に感謝致します」
帽子を取り一礼したビーツェ車掌は、すぐ横に座る家族等へ目をやる。
「誘拐犯を逮捕出来なかった事は残念でしたが、こうして息子達も無事戻りました。加えて皆様と過ごす最後の夜、とっておきのイベントを御用意致しました」
そこで一歩下がり、背後に控えていた手品師へ場所を譲る。
「既に御存知の方も多いでしょう。宇宙で五本の指に入る天才マジシャン、Mr.Rことカーシー・ロイド氏です!」
「ど、どうも。初めまして皆さん……」
相変わらず腰は低いが、流石プロのエンターテイナー。ビシッと決めた舞台衣装の燕尾服と黒いシルクハットが良く似合っている。
「ラストディナーの余興と言う事で、拙いですがマジックを御披露させて頂きます」
言うなりサッ!シルクハットを取り、そのまま逆向きに。ポンッ!今しがたまで頭の入っていた空洞から飛び出た杖を掴み、被り直して一礼。
「すごーい!」
マジシャンの目と鼻の先、特等席に座ったミアちゃんが感激の声を上げる。背を向けていて分からないが、きっと兄貴の方もさぞや吃驚しているだろう。
「なあ今の、タネ分かったか?」
小声で同席の三人に尋ねる。因みにKKは最後まで部屋で一人弁当だ。ただ最後なので、中身は俺達と一緒だと先程現れたコックが言っていた。
するとクランは目線を外し、衛兵も困った表情で治療者へ視線をやった。
(ははぁ。さては全員サッパリ分からないんだな。ここで一丁唸るような正解を出せば、きっとクランも評価を上げて)
「嘘でしょ、幾ら何でも酷くない?」「セミアさん!?声が大きいですよ!」「ま、あれでも大分練習した方じゃない。指に幾つも傷作ってるし」
練習??おいおい。プロフェッショナルに向かって、こいつ等は何を失礼な事言ってんだ?
「お前はどうだ、ラント?」
通路を挟んだ向かいのテーブルにも声を掛ける。
「え、えっと……掴みだからでしょうけど、定番過ぎるぐらい定番の手品かと。イスラ様、ちょっとお耳を」
「?はい」
ごにょごにょ。耳打ちで内緒話とかお前等女子か!?
「……え?そ、それは一体どう言う事です?」
おろおろ。
「本官にも分かりません。説明は割とすぐですか、女王陛下?」
「まぁね」
「では本官達はこのまま、黙って成り行きを見守る事にします」
??訳が分からん。にしてもこいつ等、揃いも揃って俺を除け者とはいい度胸だな。
やや立腹しつつステージに向き直ると、マジシャンが徐に胸ポケットへ手を入れた所だった。出てきたのは北斗社のロゴが印刷された縦十センチ、横五センチのポチ袋三枚だ。
「では、可愛らしいお嬢ちゃんに坊ちゃん、少しお手伝いを。この中からどれでも好きな一通を引いて、テーブルの上に置いて下さい。その際中を覗けないよう、上から手でしっかり押さえていて下さい」
「はーい!」
「オッサン、先に袋を確認してもいいか?」
「どうぞ」
承諾を受け、用心深く親指と人差し指で一通ずつ抓み、真剣な目で改め始めるジャック。こうして見ると年齢不相応にクールだ。学校では結構モテてそうだな、こいつ。
「ふーん……特に透けてもないし、こっちにタネは無さそうだな。ミア、選んでいいぞ」
「うーんと、えっと……じゃあこれ!」少女が意気揚々とど真ん中を取る。
指示通りテーブルクロスの上に置き、白い掌で固定。その目は次に起こるであろう不思議体験にワクワクと輝き、俺も思わず童心に帰って拳を握り締めた。
「はい。では、こちらはもう要らないので処分します」
ビリッ、ビリッ!残った二通を破り捨て、車掌の差し出した空の籠へ。こちらから見る限りでは、その紙切れにも特に異常は無かった。
「実はお嬢ちゃんがそれを選ぶ事を予知して、予めメッセージを入れておいたんです。開けてみて下さい」
「はーい!」
ベリベリッ!封を剥がし、中から一枚の紙片を取り出す。
「『レディ、目の前のナフキンを広げてみて』?これの事かな?」
薔薇の花を模して置かれた白布に手を掛け、慎重に解く。すると、
「わぁーっ!可愛い!!」「へえ、凄いな」
現れた虹色の造花のティアラを被り、少女は満面の笑顔を浮かべた。その様子を満足気に眺め、手品師は一礼。
「出会いの記念のささやかなプレゼントです、レディ」
「良かったな、ミア」
「ありがとうございます!でもいいのかな、私だけ貰っちゃって……」
心優しい少女は、そう言って伏し目がちに兄の方をチラッ。
「お兄ちゃんには何も無いんですか、マジシャンさん?」
「あ、いや、それは……」
「わぁ、こんな所に空気銃が」「こっちにはお菓子の詰め合わせもあるよー」「っ!!?」
気配も無く兄妹のテーブル下に頭を突っ込んだ老婆が玩具を、セミアが畳まれたカーテンからカラフルなビニール袋を手に告げる。互いの戦利品を掲げ、彼女達は揃ってバツが悪そうに舌を出した。
「え?え?」
「はい、ジャック。おまけだよ」
「あ、ああ。ありがと……あ、成程!」
受け取った少年は不意に大きな声を上げた。
「どうしたのお兄ちゃん?あ、もしかしてトリックが分かったの!?私にも教えて!!」
「あ、いや……」
キラッキラッの視線で兄をたじたじにさせる少女。そこへ、それまで沈黙を守っていたクランが信じ難い台詞を吐く。
「ドキドキ中悪いけど、ミアちゃん。うちのお兄ちゃんより下手糞なこのマジシャンさん、実は―――真っ赤な偽者なの」




