59章 ニューゲスト―――19:05:00
村のレストランで数種の焼き立てピザを皆で和気藹々と食べた後、無事スターレイン号へ帰還。土産物の運搬を男性陣に任せ、私達は一号室のソファで少し胃を休ませる事にした。
「あれ、ラント。そっち二号室だよ、間違えてない?」
躊躇いも無く手前のドアを開けた裁判官へ、セミアが問う。彼に代わり、答えたのは四天使だ。
「いえ、構わないんですよ。あちらは『彼等』に譲りましたから」
「彼等??」
キィ。「―――じゃあ、私はそろそろ運転車に戻る。何かあったら何時でも内線電話してくるんだぞ、ジャック、ミア」「ああ」「お仕事頑張ってね、お父さん!」
一号室から出て来た車掌のやりとりを聞き、成程ね、納得の頷きを返す義妹。と、振り返った父親が私達に気付く。
「ああ、お帰りだったんですかアメリア様。済みません、子供達のために部屋を移って頂いて。それもその……人殺しがあったばかりの」
「綺麗に清掃されていたので大丈夫ですよ、ビーツェ車掌。それよりもお子様方はあれから」
「御心配無く。すっかり元気溌溂ですよ。さっきグランダ君達と駅前のレストランへ行って二人共、顔程のハンバーグをペロリと平らげたとか―――」
ドッスン!バッタン!「わー、ふかふか!」「こらミア!スプリングが壊れるから止めろ!」ボーン!「あ、お兄ちゃんズルい!私もそれやるー!!」
「―――今はこの通りはしゃいでいる最中ですよ。ジャックはともかく、ミアにとっては生まれて初めての旅行ですしね。お騒がせして済みません」
「いえ」
「では、そろそろ発車時刻ですのでこれで」
苦笑しつつ一礼した彼を見送り、改めて休憩へ。
が、部屋の主達が入室した直後。ガラガラガラ……上り方面から、車内販売用ワゴンを押すパレットさんが現れた。車掌と二言三言業務連絡を交わし、改めて互いの仕事に向かう。
「あ、パレットさん。一号室に行くの?でもあの子達、お金持ってないんじゃ」
金属光沢のワゴンは三段構成になっていた。下段のクーラーボックスには、ジュース等の飲料。上段はお菓子や駅弁(降車しなかった乗客用だ)、そして中段には北斗社のノベルティグッズや日用品が乗っていた。気取られないようさり気に覗き込み、目を凝らして未入手の埴輪車掌グッズを探す。
生憎髪留めは無かったが、代わりにピンバッジを見つけた。スターレイン号に車掌が跨った、実用性はともかくキュートな逸品だ。しかもPOPには車内限定販売とある。これは買うしかない!
義妹の問いにくすくすする女性乗務員。
「それなら大丈夫です、支払いは全部車掌持ちですから。でも吃驚しました。まさか誘拐されたお子さん達が、ずっと私達の目と鼻の先にいただなんて……あら、何か御入用ですか、クランベリーさん?」
「あ、うん。そのピンバッジ、一つ貰えるかな?」
「はい。今袋にお入れするので、少々お待ち下さい」
社名入りの紙の小袋へ包装する間に、財布から金額ピッタリの小銭を用意しておく。
「―――はい、どうぞ。でも良かった。このまま終点まで売れないかと思って、少し心配だったんです」
「こんなに可愛いのに?」
セミアの言う通りだ。俗世人は目が腐っているとしか思えない。
受け取った包装袋を大事にポケットへ。新二号室の面子は何も買わないらしいので、その後も姉妹で物色を続ける。と、外の賑やかさに釣られ、小さなゲスト達も廊下へと出てきた。
「わー!これが車内販売!?」
「はい。お金はお父様の方から頂きますので、好きなだけ買って構いませんよ。例えば」ごそごそ。「こちらのスターキャンディなんて如何ですか?蜂蜜味でとっても甘いですよ」
「ふぅん」
妹の手前冷静だが、甘い物好きなのか目を爛々と輝かせるジャック。しかし伸びた手は何故か私の腕を掴む。
「おい、少しいいか?」
「ん」
首肯を確認し、兄は振り返る。
「ミア、適当に美味そうな奴見繕っといてくれ。俺はちょっと、向こうでこいつと話してくる」
「あ、うん。分かった」
手を放した成長途上者を追い、列車の連結部を越えて六号車へ。無人になった五号室前で立ち止まり、左右を警戒してから口を開く。
「―――単刀直入に訊くぞ。本当にあの女は死んだのか?」
矢張り監禁犯の件か。ま、保護者達が彼相手に詳しい事情を説明する訳も無いか。
「うん。降車して村に逃げ込み、追い詰められた末の墜落死。でも生憎、偽セレン・バービーは―――『北極星』の傀儡に過ぎない」
「!?って事は、まだ本星は残ってるのかよ……くそっ!おい、一体誰なんだ『北極星』は!?共犯が死んじまった今、奴がこのまま黙っているとは思えねえ。これ以上、ミアや父さんが危ない目に遭うなんて堪えられねえよ……!!」
義憤に駆られる少年から目線を外し、来た道を振り返る。このやりとりも聞いているのだろうか、友人は。
「指示は全部、あのトランシーバーからだよね」
「ああ。指定の時間になったら、向こうから一方的に通信が入るようになってた。御丁寧に野郎、ボイスチェンジャーで声まで変えて」
「今は何処にあるの?」
「十号室のベッドの下に隠してあったんだが……ミアを助けに出た間に壊されてた。もう連絡は来ない」
周波数を知られないためか。つくづく用意周到な事で。
「ところで昨夜は何か指示あった?」
「……いや。最後の命令は昨日の午前中だ。運転車の工具箱からトンカチをくすねて、十一号室のベッドの下へ置く。あと部屋の住人が眠り次第、天井から侵入して内鍵を開けておく。その二つだけだ」
そこでふと首を傾げる未成年。
「考えてみると妙だな。まるで」
「裏切る事が読まれていたみたい」
「っ!!?」
そして、私の関与も。どうやらこちらの意図を無視して、向こうはとっくにライバル認定していたらしい。
「ま、犯人も君に頼らなくてよくなったって事だよ。あと一日だし、気にせず旅を楽しんだらいい。ふぁ~」
「チッ、暢気な女だな……」
まだ私の十分の一も生きていない少年は、溜息混じりに呆れ返った。




