53章 ある病室にて―――??:??:??
看護士に名を呼ばれ、ハッと気が付く。
新しい点滴の副作用だろうか。ここ二、三日、睡眠を充分摂っているにも関わらず四六時中うつらうつらしてしまう。次の診察の時、きちんと主治医に告げなければ。
「あぁ……ごめんなさい。もう夕食の時間だったのね。ありがとう、頂くわ」
「じゃあテレビを点けますね」
難病で長らく個室、しかも見舞い客も来ないとあっては、束の間外界に触れられるこの時間は貴重だ。下の階のレクリエーションルームまで行けば雑誌もあるが、余程調子が良い日しか足を運べないのが難点だった。
すっかり慣れた薄味の鱈のソテーにフォークを入れつつ、動く画面を見やる。丁度ニュースでは、子供達が雪合戦を楽しむ様子が映し出されていた。
(あの子達、ちゃんと元気にやっているかしら……?)
家を出た時はとにかく、家族に迷惑を掛けたくない一心だった。勤務時間の長くなりがちな夫とまだ幼い子等へ、自分の病と言う更なる負担を強いたくなかった。だから必死に頭を下げ、どうか何も聞かず離縁して欲しいと頼み込んだ。
(二人共、大きくなっていればあの位よね……)
切ない郷愁に惹かれていたが、無情にも番組は次のニュースへ。
『―――、以上四人の捜索願は今朝、連合政府を通じ宇宙各所の警察署へ通達されました。お心当たりのある方は、画面下に表示されている電話番号に―――』
カチャン!フォークを取り落とした音に、まだ廊下にいた看護士が慌てて戻って来る。
「大丈夫ですか?」床へ屈み、「すぐに取り換えますね」
「あ、あの、看護士さん!!」
テレビを、成長した我が子二人の映った画面を指差し、病床の母は持てる力の限りを使って叫んだ。
「今すぐ電話を貸して下さい!私、あの人の所へ行かないと!!」




