52章 兄妹―――29:50:00
ペラッ。ずるずるずる……。「―――本当にお前等、あいつの仲間じゃないんだな?」
自己紹介を終え、遅い夜食兼早い朝食(塩ヌードル)を啜る少年。名前はジャック・ビーツェ。ビーツェ車掌の誘拐された長男だ。
「ええ、私達はミアちゃんの味方。昨日一昨日の事件、あなたの仕業でしょ?」
「なっ!?あ、あなたみたいな子供が殺人を……!!?」
驚愕する衛兵に、ジャックは小さな肩を竦めてみせた。
「俺は脅されて仕方なく指示に従っただけだ。あんただって、家族を盾にされりゃ大抵の事はやるだろ?」
ずずっ。
「尤も昨日は、指定された部屋に忍び込んで内鍵を開けるのと、リュックに入ってた小瓶の中身を冷蔵庫のミネラルウォーターに混ぜただけ。悪い予感はしたけど、まさか本当に毒薬だったとはな……」
強気な態度とは裏腹に、幼い瞳は罪悪感で満ちていた。意外と素直な子だ。私だったらとことんすっとぼけるのに。
「忍び込んだと言うのは、先程のようにですか?」
天井からだらーん、吊り下がったロープを指差す。
「ああ。列車の上は通風孔になってるんだ。外へも出られるぜ。子供でないと狭くて無理だが」
「では、熱傷自体は犯人の仕業」
「当ったり前だろ。子供があんな豚ババア、風呂場まで引き摺っていけると思うか?やったのは『北極星』本人さ。手下にあんな真似は無理だ」
「手下?女王様の言っていた、二人目の犯人の事ですか?」
「それはまた別口。―――ああ、そっか。アスは会った事無かったね」
私は五号室乗客の社長夫人セレン・バービーとその娘、ミアの一件を話した。察しの良い彼は流石、すぐに事情を悟る。
「では、彼女等は親子などではなく、誘拐犯と監禁中の被害者なのですね。そしてミアさんを守るために、ジャックさんは犯人の言うなりに手伝いを……」
沈痛な面持ちの後、意を決して腰を上げるアス。
「こうしてはいられません!今すぐ那美さん達を起こして、彼女を保護してもらいましょう!子供達さえ無事なら、車掌さんも何の躊躇い無く列車を停め」
「待った」
正論だが時期尚早だ。それに、まだ夫人の拘束は拙い。
「ジャック。一昨日の死体入れ替えトリックの説明もお願い出来る?」
すると一旦気を許しかけていた少年は、眉を顰め口を噤む。ふむ、予想通りの反応だ。
「悪い。そいつは……言いたくない」
「ああ、別にいいよ。私は方法も証拠の在処も、とうの昔に知っているから」
そう聞くや否や驚愕し、すぐさま反論してきた。
「はぁっ!!?は、ハッタリも大概にしろよ!?手前が『アレ』を知ってる筈が」
「実はあの夜、私もへべ駅から荷物を送ったの」
にやり。
「速達にはしなかったけど、今日辺りお兄ちゃんの所へ届く頃だよ」
「ま、マジか……いや、でも待てよ。逆にチャンスなのか、こいつは……?」
ほう、頭の回転は悪くない。中々将来有望な子だ。尤も、今回ばかりはかなり相手が悪いけれど。
「お二人共、一体何の話を」
「何れ分かるよ。―――まぁいいや。いい加減傍観者も飽きたし、ささやかだけど一度反撃と行きますか」
私は人差し指をチョイチョイし、二人に耳を貸すよう指示した。




