41章 連合政府ヘルン支部―――45:00:00
勿論昨夜と違い、トワイライト・スターレイン号は淑やかに速度を落とした。数分後、無事最初の目的地であるヘルン駅に到着。既に手荷物片手に二号車へ集合済みの私達は、ドアが開くと同時に降り立った。
「あれ、埴輪車掌がいませんね。汚れるといけないので片付けたのでしょうか?」
未使用フィルムでぱっつんぱっつんの鞄を肩に掛けたKKが首を捻る。
「かもな。ま、きっと最終日にはまた見送ってくれるさ。ガッカリするなって、クラン」
ジト目の衛兵を無視し、後続の政府員と女中に声を掛ける。
「でも本当に栗花落さん達行かないの?山道はちょっとキツいかもしれないけど、折角有名温泉に入れるのに」
「済みません、セミアさん」そこで口篭り、「実はその、自宅以外での入浴が怖くて……列車内のシャワーも、旦那様の介助が必要なぐらいなんです……」
何、その光景。想像しただけで凄く気持ち悪い。
「ですからどうか、私の事はお気になさらず。皆さんゆっくりお湯を楽しんできて下さい」
微笑で告げる盲婦に、そんな、私こそ無理言ってごめんなさい、義妹が謝る。
「じゃあ留守番の二人にも温泉卵作ってくるよ。ね、くーちゃん?」
「そうだね。二個ぐらい追加しても大した荷物にならないし。おじさんもそれでいい?」
「子供騙しだな」
鼻を鳴らす。
「まぁいい。だが贈るからには、きっちり半熟にしてくるのだぞ?万が一生だったら貴様、その万年寝惚け面に投げ返してやる」
おお、怖い怖い。何と言う暴力加齢臭だ。
「旦那様!―――ふふ、ありがとうございます。では楽しみにお待ちしていますね」
二人に遅れ、那美とパレットさんがホームに降り立ち、ラント達と道中の相談を始める。盗み聞くに、行方不明者の捜索届はここで待機の上司に一任するようだ。しかもどうやら時間の都合上、観光は抜き。山登り直行コースらしい。そのお陰で、早ければ一時前にはランチにありつけそうだ。と、背後から間違えようの無い視線を感じた。
「先に降りるなんて酷いわ、クラン。一声掛けてくれれば良かったのに」「御免御免、老体にはちょっとハードかと思って」
旧友の登場に、仲間達は無言でそっと距離を置いた。だから変に気を遣わなくていいのになぁ。
「老人こそ温泉に入らなくてどうするの。さ、行きましょう」
おや?とすると、次は中々面白い事になりそうだ。
「おい!準連合政府員、宝 那美だな?」「はい、そうですけど―――え!?ま、まさか応援の方ですか!!?」
駅舎から乗り場にやってきたのは、白い制服に身を包んだ五人の男達。先頭の男の掲げた手帳には確かに、宇宙の秩序の象徴が印刷されていた。
「昨夜、近隣住民から通報があった。列車から墜落した遺体を収容したそうだな?」
帽子で隠れてはいるが、リーダーは黒い短髪だ。と、一瞬目だけが笑う。……ほほう、これはますます愉快な展開になってきた。
「はい。で、でも待って下さい!今列車の運行を止めたら、誘拐された子供達が殺されてしまうんです!!」
必死の訴えに、政府員は小さく首を横にする。
「安心しろ、そちらの事情は政府館から既に通達済みだ。―――俺はスコルピオン。ヘルン支部から派遣されて、身元不明死体を病院へ搬送しに来ただけだ。不審死なんだろう?取り敢えずこちらで解剖に掛ける。構わないな?」
「はい、ありがとうございます!」
おやおや……ま、部外者は大人しく黙っておくとしよう。
「他に御用がありましたら、こちらの上司に何なりとお申し付け下さい」
「フン」
おじさんはギロッ!同僚達を睨め付けた後、しかしお前達駐在務めだな、本部の捜査官は来ていないのか?そう尋ねた。
「ああ。だがベルイグ氏、あんたの手腕は噂に聞いている」
「ほう」
「政府館も大方、あんたの捜査力を見越して増援を送らなかったんだろう」ニヤ。「心配するな、バックアップは俺達が務める。あんた等は一刻も早く事件を解決してくれ」
リーダーはそこで自身の腕時計を見、鋭く舌打ちした。
「英雄殿ともっと話したい所だが、生憎こっちも時間が無い。おい!」
「はっ!」
部下四人が一糸乱れぬ動きでビシッ!敬礼した。
「これは心強いですね!さ、パレットさん。私達もそろそろ出発しましょう」
「はい」
キビキビと列車内へ乗り込む政府員達を残し、外出組は足早にホームを後にした。




