38章 三通目の予告状―――49:55:00
―――前略 業深い北斗社の皆様へ
次なる不善は『悪口』。灼熱なる水に焼かれ、爛れた醜き四肢と魂を顕わにするだろう。
北極星―――
「この新聞を用意したのはあなたですよね、車掌?」
「ええ」
午前七時五分、運転車。空腹でむくれるベルイグのオッサンに運転を交替し、応対した責任者は簡潔に答える。
「購入した時間は?」
「確か……五時半ぐらいです。私とロイヤルスイートのお客様方の分の計三紙を、チャーチ駅のスタンドで買いました」
「乗車後は」
「四号車の、従業員室のワゴンの上へ」
「ではその後、あなたがモーニングサービスで運ぶまでずっとそこに?」
質問に、朝食給仕の合間に呼び出されたパレットさんが頷く。イスラの言う通り、まだ若干顔が青白い。幾ら人手が足りない状況だからって、流石に可哀相だ。あとで食器の片付けでも手伝うか。
「はい。とは言え、朝食の仕込みがあるグランダと違って、私はまだ眠っていました。しかし彼が外から鍵を掛けていたので、部外者が手紙を差し込む事は不可能だと思います。ですよね、車掌?」
「ええ。シー君を起こすのは不憫だったので、私も置いてすぐに施錠し直しましたし―――ああ、マスターキーは二本です。私の分と、ビア副車掌の分をシー君が。グランダ君には乗務員室と、調理関係の全ての鍵を預かってもらっています」
「では順当に考えると、犯人はあなた方三人の内の誰か」
「とは限らないでしょ」
クランのツッコミ。確かに、それでは話にもならないな。
「パレットさん、一号室までは寄り道せずに行ったの?」
「……いえ、先に手前の二号室へ。既に御存知かもしれませんが、ビア夫人は北斗社の大株主ですから……」
苦々しげに答え、昨日の元弁護士の時と同じく眉を顰めた。
「けど、入れてもらえなかった」
「!?え、ええ……まだベッドの上だからと仰られて、ドアを開けてもらえませんでした。そして言われた通り新聞を袋に入れ、ドアのフックに掛けました。一号室へ向かったのはその後です。でもどうして」
女王を凝視したカフェマスターはだが、混乱しつつもゆっくりと穏やかな笑顔を浮かべる。
「あぁ、成程……あなたがグランダの言っていた子なのね。キムに良く似た……本当にそう」
部下がその名を呟いた瞬間、車掌の顔が微かに曇る。
(クランに似ている、なぁ……もしかして、そいつも『見え』ちまうのか?)
「レイ。引き返す時に、その新聞は回収されていた?」
「えっと……ああ、無かったぞ。狭い通路だし、あったら確実に覚えている筈だ」
急に質問を振られ、若干ドギマギしつつ答える。が、万年クールなクイーンは相槌さえ打たず話題を戻した。
「容疑者は他にもいるよ、那美。新聞を受け取ったラントやイスラもだし、二人を迎えに来たレイ達にもチャンスはあった」
「おい、クラン!?」選りにも選って仲間の俺達まで疑うつもりか!?
俺のショックを知ってか知らずか、運転席の背に凭れて大欠伸。真後ろでハンドルを握るオッサンが睨むも、当然気にも留めない。
「でもね―――実物を見てやっと分かったよ。これはラブレターなんだって」「「「「は?」」」」
同時に間抜けな声を出す俺達四人を一瞥し、少女は静かに言葉を紡ぐ。
「ねえ、一つ確認させて。二通目の、念押しとしか思えない誘拐のお知らせだけどさ……もしかして、赤かピンク色の便箋じゃなかった?」
「っ!!?ちょ、興味無さそうなフリをして、コソコソ隠れて覗きましたね!!?」
当たりなのか。しかし、便箋の色が何だって言うんだ?
「だろうね。じゃ、やっぱり犯人捜しなんて必要無いんだよ。次の事件を防ぎたいなら、書かれた『悪口』の方を見つけて保護しなきゃ」
「正論ですが、全く訳が分かりません!あなたは一体何を『見て』いるんです!?」
その怒号には同意の一念だ。しかし、何故だろう……?スターレイン号に乗ってから、クランは明らかに俺達と距離を取っている。昨夜だってそうだ。相棒のボビーすら連れず、一人で出て行くなんて……。
最初に会った頃言っていた『下界の毒』。そのリミットを待たず、このまま遠くへ行ってしまいやしないか……そんな不安が募り、俺は内心酷く落ち着かなくなった。




