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流星疾走  作者: 夕霧沙織
39/82

38章 三通目の予告状―――49:55:00



―――前略 業深い北斗社の皆様へ


 次なる不善は『悪口』。灼熱なる水に焼かれ、爛れた醜き四肢と魂を顕わにするだろう。

                            北極星―――


「この新聞を用意したのはあなたですよね、車掌?」

「ええ」 

 午前七時五分、運転車。空腹でむくれるベルイグのオッサンに運転を交替し、応対した責任者は簡潔に答える。

「購入した時間は?」

「確か……五時半ぐらいです。私とロイヤルスイートのお客様方の分の計三紙を、チャーチ駅のスタンドで買いました」

「乗車後は」

「四号車の、従業員室のワゴンの上へ」

「ではその後、あなたがモーニングサービスで運ぶまでずっとそこに?」

 質問に、朝食給仕の合間に呼び出されたパレットさんが頷く。イスラの言う通り、まだ若干顔が青白い。幾ら人手が足りない状況だからって、流石に可哀相だ。あとで食器の片付けでも手伝うか。

「はい。とは言え、朝食の仕込みがあるグランダと違って、私はまだ眠っていました。しかし彼が外から鍵を掛けていたので、部外者が手紙を差し込む事は不可能だと思います。ですよね、車掌?」

「ええ。シー君を起こすのは不憫だったので、私も置いてすぐに施錠し直しましたし―――ああ、マスターキーは二本です。私の分と、ビア副車掌の分をシー君が。グランダ君には乗務員室と、調理関係の全ての鍵を預かってもらっています」

「では順当に考えると、犯人はあなた方三人の内の誰か」

「とは限らないでしょ」

 クランのツッコミ。確かに、それでは話にもならないな。

「パレットさん、一号室までは寄り道せずに行ったの?」

「……いえ、先に手前の二号室へ。既に御存知かもしれませんが、ビア夫人は北斗社の大株主ですから……」

 苦々しげに答え、昨日の元弁護士の時と同じく眉を顰めた。

「けど、入れてもらえなかった」

「!?え、ええ……まだベッドの上だからと仰られて、ドアを開けてもらえませんでした。そして言われた通り新聞を袋に入れ、ドアのフックに掛けました。一号室へ向かったのはその後です。でもどうして」

 女王を凝視したカフェマスターはだが、混乱しつつもゆっくりと穏やかな笑顔を浮かべる。

「あぁ、成程……あなたがグランダの言っていた子なのね。キムに良く似た……本当にそう」

 部下がその名を呟いた瞬間、車掌の顔が微かに曇る。

(クランに似ている、なぁ……もしかして、そいつも『見え』ちまうのか?)

「レイ。引き返す時に、その新聞は回収されていた?」

「えっと……ああ、無かったぞ。狭い通路だし、あったら確実に覚えている筈だ」

 急に質問を振られ、若干ドギマギしつつ答える。が、万年クールなクイーンは相槌さえ打たず話題を戻した。

「容疑者は他にもいるよ、那美。新聞を受け取ったラントやイスラもだし、二人を迎えに来たレイ達にもチャンスはあった」

「おい、クラン!?」選りにも選って仲間の俺達まで疑うつもりか!?

 俺のショックを知ってか知らずか、運転席の背に凭れて大欠伸。真後ろでハンドルを握るオッサンが睨むも、当然気にも留めない。


「でもね―――実物を見てやっと分かったよ。これはラブレターなんだって」「「「「は?」」」」


 同時に間抜けな声を出す俺達四人を一瞥し、少女は静かに言葉を紡ぐ。

「ねえ、一つ確認させて。二通目の、念押しとしか思えない誘拐のお知らせだけどさ……もしかして、赤かピンク色の便箋じゃなかった?」

「っ!!?ちょ、興味無さそうなフリをして、コソコソ隠れて覗きましたね!!?」

 当たりなのか。しかし、便箋の色が何だって言うんだ?

「だろうね。じゃ、やっぱり犯人捜しなんて必要無いんだよ。次の事件を防ぎたいなら、書かれた『悪口』の方を見つけて保護しなきゃ」

「正論ですが、全く訳が分かりません!あなたは一体何を『見て』いるんです!?」

 その怒号には同意の一念だ。しかし、何故だろう……?スターレイン号に乗ってから、クランは明らかに俺達と距離を取っている。昨夜だってそうだ。相棒のボビーすら連れず、一人で出て行くなんて……。

 最初に会った頃言っていた『下界の毒』。そのリミットを待たず、このまま遠くへ行ってしまいやしないか……そんな不安が募り、俺は内心酷く落ち着かなくなった。



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