37章 二日目・行動開始―――50:10:00
「ホントに大丈夫、くーちゃん?」「ん……血圧が上がったらね」
翌朝、午前六時五十分。
義妹の半分開けた背に負われ、隣室のKKと連れ立って食堂へ向かう。レイ達は少し先に出、一号室の二人を呼びに行っている。時間的に途中で合流出来るだろう。
「にしても僕が弁当の撮影に四苦八苦している間に、そんな恐ろしい事件があったなんて……で、その木乃伊は現在何処に?」
「十号室って言ってたよ。那美達の部屋の隣だね。直前にキャンセルがあって、丁度空いていたみたい。あ、興味あるなら覗いてく?」
「い、いえ!結構です!!」
そんな雑談をしながら三号車へ入ると、タイミング悪く九号室からアルバイターが出てきた所だった。気配に振り返り、険しい表情で私を見やる。
「お、おはようございます……昨夜はその、突然悪かったですね。あなたの言う通り、取り敢えずは自力で何とかしてみます」
「Zzz……」
「人が真剣に謝っているのに寝ないで下さい!本当に引っ立てますよ!?」
「はいはい。ふぁーっ……あ、おはよう栗花落さん」
那美の背後から出て来た女中に声を掛けると、彼女は丁寧にお辞儀してくれた。今朝も早速一服点てたのか、ほんのり抹茶の香りが漂う。
「おはようございます、皆さん。ええと、こちらの方は?」
初対面の気配を察知し、首を傾げる。
「地元の高校生で、鉄道部部長のKK。この列車について色々勉強してるから、分からない事があったら遠慮無く訊くといいよ」
「まあ。宜しくお願いします」
「ど、どうも」
こう言う大人しい女性がタイプなのか、照れ臭そうに頭を掻いて会釈。
「ところで捜査の進展はあった?」
「いえ。念のため先生と再度遺体を改めましたが、矢張り身元に繋がる手掛かりは見つかりませんでした。取り敢えずはヘルンへの到着待ちですね。途中で停車出来れば、昨夜の内に行方不明者の捜索依頼を出せたのですが―――?どうしました、学生さん?」
「あ、いえ……」
口を噤む彼に代わり、負われた私が答える。
「停車ならしたよ。ほんの二、三分だったから、急いでる車掌さんは走りっ放しだって言ったんだろうけどね」
「え?たった二、三分で、彼は一体何をしていたんです?」
俄かに騒がしくなった後方を顎で示し、ほら、早速答えが来たよ、と教える。
「おはよう、五人共」「おはようございます」
先輩の手にした灰色の紙束を見、ああ、驚きつつも納得の頷き。
「ん?いえ、でも待って下さい。私達の部屋にはありませんでしたよ、新聞なんて」
「ああ。朝刊とモーニングコーヒーは、ロイヤルスイート限定のサービスだ。何だ、知らなかったのか宝君?」
「昨日の朝、突然乗車する事になったんです。僕達だってセミアさん以外は不勉強ですし、ラントさん。無理も無いですよ」
「そうそう。でも優雅でいいなぁ、朝から新聞片手に美人の淹れたてコーヒーとか」
アスに続き、レイも羨ましげにフォローした。
「まだ顔色が優れなかったので、休むよう言ったのですが……職業意識とは素晴らしい物ですが、また倒れはしないか心配です」
案じる四天使は義妹へ近寄り、私を見上げる。
「それであなたは大丈夫ですか、クランベリー?」
「うん、もう大分眠気が覚めたよ。降ろして、セミア」
パタパタ、トンッ。「うーん」背筋を伸ばしていると、今度はKKが裁判官へ話し掛ける。
「あの、天気欄だけ見せて貰っていいですか?今日もヘルンで写真撮影するつもりなので」
「あ!そうだね、流石KK」
車窓からは雲一つ無い青空が見えるが、百キロ以上先の目的地もそうだとは限らない。特に今日は山の上、緋鮮温泉と言う有名らしい湯治場でひとっ風呂浴びる予定だ。幾ら遅れているとは言え、燃料補給や車内清掃で数時間は停車を余儀無くされる。従って、天気が良いに越した事は無い。あ、そうそう。ボビーも忘れずに洗わないとね。
「いいですよ。どうぞ」
「ありがとうございます」
バサバサ。
「良かった、快晴だ。この分だと明日のケーニ村方面も問題無さそうです」
「なら安心だね。私達全員、傘持って来なかったから。因みに今日の運勢は~?」
週間天気の下の占い欄を、屈んだ義妹が覗き込んだ時、パサッ。紙面の隙間から、一通の封筒が零れ落ちた。
「何だ、チラシか?」
「え!?こ、これはまさか!!?」
手を伸ばしかけたレイより先に、那美が神速の早さで拾い上げ封を切る。中に入っていたのはお得なセール情報などではなく―――噂に聞く、緑のパステルカラーの便箋だった。




