35章 清浄なる森と不浄なる列車の密談―――??:??:??
プルルル、ガチャッ。『―――はい、もしもし。押し売りならお断りだよ』
小生意気な少年の第一声に、樹木精は思わず含み笑いを漏らした。懐かしいそれに気付き、あれ、聖樹のお爺さん?頓狂に尋ねる。
「はい。夜分遅くに済みません、オリオール様」
『そんな事無いよ、お爺さんだったら何時でも大歓迎!でも急にどうしたの?兄様に用事?』
「ええ。少しお耳に入れておきたい事が御座いまして」
『ふーん。ちょっと待って、今呼んで来て―――あ、兄様!聖樹のお爺さんから電話だよ!!』ガチャッ。『―――こんばんは、聖樹さん。珍しいですね、こんな時間に……』
一日の激務で疲労し切り、今にも掻き消えてしまいそうな声。その音色に精霊は心を痛めつつ、用件を告げた。
「お休み中申し訳ありません、誠様。早速ですが、今夜私共の村の近くを走った寝台列車、トワイライト・スターレイン号を御存知ですか?」
『ああ、ラントさんが乗っている』
頷く気配。
『はい、勿論知っています。私も是非にと誘われたのですが、四日間ともなるとスケジュールがどうしても空かなくて……ええと、もう通過したんですか?』
「ええ、一応は」
『?』
例の小首を傾げる癖を取っているであろう元隣人を愛おしく思いつつ、主不在の執事は重々しく続けた。
「単なる私の取り越し苦労ならいいのですが、念のため調べて頂けますか?実は―――」
「―――いるか?」
深夜、最も暗い丑三つ時。震動する室内に、棘を持ったボーイソプラノが響く。
「俺、上手くやれただろ。だったら―――チッ、分かってるよ。その代わり、妹には絶対手を出すな。あいつに何かしてみろ?仮令何年掛かっても、必ずお前に復讐してやる」
物騒な宣言はだが、得体の知れない誘拐犯にハッキリと震えていた。いや、仮令子供でなくとも、到底恐怖心は抑えられなかっただろう。彼の対峙する『北極星』は、正しく天より舞い降りた死の使いなのだから……。
訪れた長い沈黙に、少年は舌打ちしてその場を去る。数十秒後。通過する山々の間から冷たい月光が差し込み、テーブル上の黒いトランシーバーを照らし出した……。




