26章 想定外の死体―――61:15:00
「二人共どうだ、遺体の状況は?」
遅れて現場入りした俺達を順に見上げ、片膝を着いたグランダは黙って死体を指差した。そちらにライトを当てる事数秒。予期せぬ光景に、俺達は揃って口をあんぐり開けた。
「お、おい……これが、俺達の列車から墜落したってのか?」「ええ、どうもそうらしいですね」
線路横の草原に横たわっていたのは、うつ伏せの現時点でも充分判別出来る。食堂で俺達を睨んでいた副車掌、オットー・ビアの死体とは全くの別物だ。いや、死体なんて生易しい代物じゃねえ。こいつは、
「何処からどう見ても木乃伊……女王様の預言通りです。確かに僕等が目撃した遺体は彼ではありません」
「何ですって?クランがそう言ったの?」
片眉を上げる那美に、はい、見つかるが違うだろうと、そう付け加えるアス。その返答に立ち上がって腕を組み、彼女は顎に手をやって思案を始める。
「消えた副車掌の代わりに現れた木乃伊……いえ、どう考えてもおかしいです。私達は出発前、スターレイン内を隅から隅まで調べました。成人男性の遺体を二つも見逃すなんて有り得ません」
「推理は後だ、宝君。取り敢えず引っ繰り返して、身元が分かる物が無いか調べてみよう」
「そうだな。オットーじゃなかったのは残念だが、まずは面を拝ませてもらおう」
「ちょっと待って下さい。動かす前に現場写真を撮っておきます」
彼女はそう言い、セミアから借りたポラロイドカメラを構える。角度を変え何度かシャッターを押し、コックと先輩に体勢を変えるよう言う。
ドサッ。「うっ……!」「こりゃ酷えな……」
かつて両眼があった場所には虚ろな闇が浮かび、乾燥で縮んだ口は歯が剥き出しになっていた。それに、何だ?木乃伊からは腐臭ではなく、林檎のような甘さに混じり、溶けかけたビニール袋みたいな臭いがする。しかも死体らしくない、生者とそう変わらないピンク色の肌をしていた。
纏っているのは新品のセーターとズボン、それにダウンジャケット。御丁寧にもぴかぴかに磨かれた革靴まで履いてやがる。だが、薄手の手袋を嵌めた那美がポケットを残らず検めるも、パスポートや財布等は見つからなかった。
「誰か、彼に見覚えは?」
成人済みなのは明らかだが、年齢不詳の死体の知人などいる筈が無い。四人揃って首を横に振った。
「ですよね。しかし、これからどうしましょうか……?現地警察に任せるにしても、このまま遺体を放置しておく訳にはいきません。それに事情説明のためにも、一度現場であるスターレイン号へ戻らないと」
「現場写真は一通り撮りましたし、いっそ遺体を列車まで運んでは如何です?もしかしたら乗客の中に彼の知人がいるかもしれません」
衛兵の提案に、北斗社の社員も首肯する。
「そうだな。折角の初運行がこんな形で終わるのは不本意だが、人死にが出たんじゃ仕方ない。車掌に理由を話して、警察を呼んでもらおう」
「済みません、お願いします」
頭を下げた彼女は、それまで事の成り行きを見守っていた村人達へ、担架になりそうな板の調達を依頼した。




