27章 任務達成―――61:00:00
停車位置の数キロ先、進行方向上で一番近いヘベ駅。その目の前に建つ郵便局へ入ると、受付の外には配達寸前の荷物がうず高く積まれていた。その内の一つ、縦横高さ約五十センチの段ボール箱の宛名を眺めていると、受付の局員に声を掛けられる。
「お嬢ちゃん、お荷物かい?」
夜勤にしては愛想の良いオジサンだ。
「うん。中身はぬいぐるみだよ。送り状頂戴」
「はい。じゃあちょっと量らせてもらうね」
早速局員が後ろを向き、抱えた包みを計量器に掛けて料金計算し始める。その間にマクウェル家長兄、文牙お兄ちゃんの現住所(龍商会ビル)をサラサラ。当然クオルへの転送依頼状を同封済みだ。着払い、っと。
「出来たよ」
「はい。じゃあ送料を頂くね」
財布から紙幣を出し、控えを貰って手続き完了。礼を言って受付を離れた後、わざと集配物の山にぶつかる。
「あ、ごめんなさい!」
勢いを誤り、目的の物の後方数個もついでに転がってしまった。突然の惨状に、慌てて局員がカウンターから出てくる。
「大丈夫かい?ここはおじちゃんが片付けとくから、早く帰りな」
「ごめんなさい。何も壊れてないといいけど……」
愁傷に謝る振りをしつつ郵便局を出、線路上を颯爽と戻り始める。そして何事も無いまま数分後、
「くーん!」「この一大事にフラフラと何処へ行ってたんですか、クランベリー!?」
一号車の外。捜索に行った筈の一匹(大方寒くて早々に引き返して来たのだろう。この根性無しの豚コリーめ)と天使に叱責され、ちょっと夜の散歩、予め用意していた嘘を吐く。と、車両上からも呼び掛けられた。
「くーちゃん、血痕見つけたよ!あそこに梯子あるから登っておいで!」
屋根で仁王立ちの巨乳ピンク髪に物騒極まりない命令を出され、私は肩を竦めながらも従った。二号車と三号車の間、隠すように設置された鉄の梯子に手を掛けよじ登る。
そこから屋根伝いに一号車へ到着すると、妹が現場を照らした。私達の席の真上には彼女の言う通り、僅かながら血痕が付着している。ついでに何箇所か、硬く細い物で擦ったような痕跡も。
「見間違いじゃなかった、って事だけは間違い無さそうだね」
「あれを何と間違うの!?もー、くーちゃんは天然さんだなあ!」
ケラケラ!
「そこまで笑わなくても。で、他には何か見つけた?」
「ううん。一応車掌さんと全部の車両の上を調べてみたけど、あったのはここだけだよ。側面はさっき、イスラとボビーに一周して見てもらったし。後残っているのは車輪ぐらいだけど、特に遺体を踏み潰したような震動は無かったから……うん。車両の外の調査はこんな所かな」
「だろうね」
「だろうね、って!『万里眼』で見えているなら、先に教えてくれればいいじゃない!!」
「まあまあ、一応念のためだよ。じゃあ後は捜索隊待ち―――ああ、噂をすれば帰って来た」
線路伝いに煌々とライトを焚き、こちらへ戻る一団が見える。先頭は急ぎ足のコック。数メートル遅れてレイとラントが担架で死体を運び、左右にはアスと那美が付き添っていた。
「おーい那美ー!こっちにカメラ持って来て!血痕があるの、雨で流されない内に撮らないと!!」
「何ですって!?分かりました!」
政府員は駆け足で最も手近な四号車へ向かい、速度を落とさないまま、
「はっ!」タタンッ!!軽やかに車体を蹴って、跳んだ!
「な、何だ今の……!って言うか列車を汚すな!?」
星空にくっきり付いた足跡を見、追い越されたコックが叫ぶ。
「済みません、何分緊急事態だったので。後で洗っておいて下さい」
しれっとクレーム応対する那美。そのまま足場の高さと不安定さを物ともせず、私達のいる一号車まで駆けて来た。
「何処ですか?」
「これよ」
長い人差し指の示す先をパシャッ!ジジジ……現像された写真を確認し、パンパンのポケットに収める。その後助かりました、用済みのカメラを持ち主に返す。
「あ、フィルム全部使っちゃったんだ。まぁ部屋にまだ予備はあるし、街でも補充出来るからいいか。因みにこれって経費だよね?出来れば使った分の代金を返してくれると助かるんだけど」
「勿論です。後で領収書を政府館へ送って下さい」
「はーい。じゃあそろそろ下降りようよ。私も死体見てみたい」
好奇心旺盛に物騒な言葉を吐き、いそいそと梯子を降り始める義妹。その後ろから足を掛けていると、鬼女が直接地面へ飛び降りる音がした。




