25章 事情聴取―――61:25:00
すぐ左手が巨大森林に面した線路上には、近隣住民と思われる農夫が数人立っていた。その十数メートル離れた地点、森の入口付近にもう一人。こちらは痩せた爺さんだ。白髪頭に、場に似つかわしくない執事服を着ている。
「私とグランダさんは彼等から事情を訊きます。先輩達はそちらの御老人の方を頼みます」
「分かった。行こうアス君、レイ君」
近付いてみると、爺さんは明かりの代わりに大きなバスケットを二つ提げていた。夜気に漂う甘い香り。中身は菓子か?そう言えば腹減ったな……あ、鳴った。
「あの、済みません。さっき通過したトワイライト・スターレイン号に乗っていた者です。この辺りにその……妙な物が落下しませんでしたか?」
衛兵が恐る恐る問うと、ええ、落ちましたよ、執事は素直に首肯した。
「!?い、いや待って下さい!女王様は確か違うと……ああ、済みません。こちらの話です」
「とすると御老人。遺体はあちらに?」
那美達の向かった農夫の輪の中心地、線路の三メートル程北を指し示すラント。
「はい、ですが心配ありません。私が言ってので、まだ誰も触っていません」
「現場保存感謝します。―――では早速、落下した時の状況を教えて下さい。車両の上に人影は見ましたか?」
「生憎暗かった上、一瞬だったので何も……それにあの時、私達は全員こちらの南側にいました。ですので直接墜落を目撃した訳ではないのです」
「じゃあ、列車通過後に死体を発見って事か」
ゾッとしねえな。
「仰る通りです。見物会の撤収を始めた直後、列車が来る前には無かった『あれ』を発見し、地元警察を呼ぼうとした所へあなた方が」
そこまで話を聞き、ラントは顎に手を当てて深く悩み始める。そして、
「成程。―――矢張り、これが例の予告状に書かれていた事件のようだな」
「何!?」
「きょ、脅迫ですか!?」
突然飛び出た単語に驚く俺達。
「その話は列車に帰ってから。御老人、他に何か気付いた事はありますか?」
更なる質問に、だが彼は黙って首を横にした。にしても不思議な爺さんだ。一人離れて立っている事と言い、雰囲気や場違いな格好と言い、一体何者だ?
「お役に立てず済みません。後は向こうにいる村人達から訊いて下さい。何せ私は、これより一歩も先へ行けない身でして」
「「??」」
二人で首を傾げていると、何かに気付いた様子の裁判官が不意に息を詰めた。表情を硬直させ、怖々と尋ねる。
「ま、まさかあなたが、曽祖父の話していた聖樹……!?」
「ほう」
白い片眉を上げる。
「都会の方が、私のような田舎の一精霊を御存知とは珍しい。曾お爺様のお名前は何と?」
「そ、それは……あっ!済みません!後輩が呼んでいるので、これで失礼します!二人共!!」
「お、おう」
急いで証言者の元を離れ、彼の耳が届かない距離へ。振り向いて確認後、衛兵が口を開く。
「お知り合いなのですか?」
「ええ、曽祖父の。しかし過去に色々あったとかで、あの人は彼に余り良く思われていないらしくて。恐らくこの地方への派遣にあたり、宝君も注意するよう聞かされている筈です」
あの温厚そうな爺さんが、ねえ……と、当人が俺達を呼ぶ。
「僕、ちょっと行って来ますね」
衛兵が引き返し、一分後。両手に白い紙包みを持って帰還した。途端漂う、例の甘い匂い。
「な、何でしたか?若しや本官の正体が」
「いえ。余ったので良ければ、と」
そこで俺を見、クスリ。さっきの腹の虫を聞いてたのか、こいつ!?
「どうぞ、レイさん。ラントさんも」
言いつつ包装を開ける。中身は店頭に並んでいてもおかしくない、完璧な焼き加減のハニーシフォンケーキが四切れ。
空腹に負け、真っ先に手を伸ばし頬張る。美味い!一方、同じく勧められたラントは、包みを広げるアスに気遣わしげな目をやった。
「君は食べないのか?」
「僕は大丈夫ですから、遠慮せずどうぞ」
裁判官は掌に余るボリュームの二等辺三角柱を掴み、半分に割って無言で返還。済みません、衛兵が頭を下げて口へ運ぶのを確認し、ようやく食べ始めた。この仲良し共め!
「美味しい。早速那美さん達にも届けましょう」
「ああ。どうやら向こうの証言も粗方取れたようだ」
那美とグランダは村人達の輪の中心に屈み込み、墜落死体の検分を開始した模様。流石は鋼鉄心身の女と、日常的に肉を捌くコックだ。遠目にも大して顔色を変えてはいなかった。




