24章 遺体捜索隊―――61:40:00
懐中電灯で照らして腕時計を確認すると、丁度七時二十分を指していた。本来ならばディナーを終え、人生初の車内シャワーを浴びてゆっくり寛いでいる頃。なのに何故、見知らぬ野郎の死体を捜しに、しかも凍える夜道を行進する羽目に?しかも、
「怖ければ服の裾を掴んでいて構いませんからね。あと、私の前には絶対出ない事」
「はい」
「大丈夫。冬眠明けの熊程度、私がノックアウトして鍋の材料にしてやりますから」
ヒュッ!当たれば重傷確定の殺人蹴りが空を裂る。
「何か気配を感じたら、すぐに本官達へ伝えてくれ。はぐれると厄介だ、なるべく傍を離れないように」
「ええ、分かっています」
数メートル先を行く三人は、アスの合流以来ずっと和気藹々としている。後続の俺とコックの存在など、最早綺麗に忘れたかのように。
車両関係者代表として同行したコックの名はグランダ。職人気質だが、話してみると結構気さくな男だ。年は二十五歳、パレットさんと同期入社だそうだ。先程の取り乱し方からも分かる通り、彼女の気絶が余程ショックだったらしい。こうして墜落予測現場に向かう間も、しょっちゅう黙り込んでは眉間に皺を寄せていた。
何度目かの沈黙を解き、彼は前方を見やりながら言う。
「ところでいいのか、衛兵さん?王子様を守らなくてさ」
その綺麗に刈り上げた米神にボウガンを撃ち込みたい衝動をどうにか堪え、小声で訂正する。
「衛兵は向こう。俺が正真正銘の皇太子だよ……とてもそうは見えないだろうけどな」
「本気で?いや、気を悪くしないでくれ。あっちの方が何処と無く品があるからてっきり」
無意識にキャンベル家伝来のアーミーナイフの柄を掴みかけた右手を外し、煮え繰り返った腹を抑えた。くそっくそっ!俺は囚人より下品で馬鹿っぽいって事かよ!?
くさくさした気分が顔に出たらしく、下町派コックはニヤニヤ。
「まあ、人には天賦の才って奴があるからな。コンプレックスなら王族らしく、賢そうな趣味の一つでも始めてみたらどうだ?お前、俺とそう変わらない年なんだろ?少しは雰囲気が変わるかもしれないぞ」
「例えば?」
「チェスとか」
「ああ……そう言うのは駄目だ」手をパタパタ振り、「うちの女性陣が滅法強くてな、とてもやる気が起こらねえ」
特にクラン。あいつは凡そどんなゲームでも絶対に負けない。運ではなくゲームの流れ、相手の手札と感情、そして諸々の条件を読み切り、淡々と勝つ。そう……これまでの事件で見せた超推理能力、そのほんの一端を使って。
俄かには信じ難い説明に、だが彼は意外にも目を見開き、強い興味を示した。
「あの女の子が……?そうか、道理で『あいつ』と同じ雰囲気してると思った」
「ん?」
「いや、何でもない。ちょっと、似ている奴を思い出してな……」
その瞳には懐かしみ、友愛、そして何故か―――激しい憎悪の炎が見えた。一体何だってんだ?
「何モタモタしているんですか二人共!?早く来て下さい!!」
どうやら目的地到着らしい。急かす声の先へ、懐中電灯片手に俺達は走り出した。




