21章 ディナーセレモニー―――63:00:00
「―――では、私からの話はこれぐらいに致しまして、本日の特別ゲストに御登場頂きましょう」
参加人数十三人と言う数にしては盛大な拍手の中。キッチンの陰から粛々と現れたラントに、車掌からマイクが手渡される。彼は一度深呼吸をした後、徐に口を開いた。
「本日はこのような場にお招き頂き、誠にありがとうございます。副聖王である曽祖父の代理と言う事で、僭越ながらこの場で北斗社と乗客の皆様に御礼申し上げたいと思います」
そこで目線を右斜め下、ペアのテーブル席で拳を震わせながら自身を見つめる信仰対象にやる。大丈夫だと言いたげに深く頷いたが、鈍感極まりないイスラにそんなジェスチャーが通じる筈も無かった。
一方私達四人は食堂車のほぼ中央、唯一の四人掛けのテーブルを囲んでいた。正面は衛兵、窓際にはセミアとレイ。そして通路を挟んだペア席では、余裕綽々な同胞がテーブルの下でナプキンの鶴を折っている最中だ。
こっそり背後、三号車側出口付近を窺う。そこでは椅子に浅く腰掛けたアルバイターが、異変赦すまじと食堂全体へ睨みを利かせていた。外した先で二号室の御婦人と視線が合い、にこやかに手を振る。が、何故か慌てて目を逸らされた。はて、気分でも悪いのだろうか?
気分直しに元弁護士のお爺さんとスマイルを交換。手品師はスピーチ中もずっと俯いたまま。コミュニケーションを取るのは無理そうだ。
「ねえ、クラン―――あそこに出てるわよ、私達の星が」「うん、知ってる」
車窓から見える、白く輝く一等星。手遊びの成果を解きながら指差した友人は、四十七年前と同じ笑顔を浮かべていた。その事実にショックを受ける自分に、不覚にも一瞬動揺してしまった。無意識にテーブル下で腹這いのボビーを撫で、精神の平穏を図ってしまう程に。
「―――では皆様、お手にグラスをお願いします」
様になった音頭に、私達はテーブルの細いグラスを掴む。中身は義妹と私がジンジャエール、男二人がシャンパンだ。流石に一日二度もあの甘ったるい物を飲む気にはなれない。
相方が慌ててグラスを掴むのを確認し、代理人も天井のシャンデリアへ向けて杯を掲げる。と、視界の左端、義妹達の更に奥に何かが入り込む。
想定通り、しかし未知なるモノを一瞬だけ視認し、平和な旅の終焉に心中小さく嘆息した。勿論、脳内で次の五手十手を弾く事は忘れずに。
「皆様に旅の守護天使、イスラフィール様の御加護が有らん事を祈って―――乾杯!」




