20章 輝き始めたポラリス―――63:10:00
「やっとご飯だね。私、もうお腹ぺこぺこー!」食堂に着いていない内からポラロイドカメラを構え、先頭を行く義妹が言った。
相変わらず二号車の乗車口で敬礼中の埴輪車掌。勤勉な彼の横を通過し、六人でディナー会場である食堂へ向かう。メンバーは私服の私達四人、プラス揃いの黒タキシードを着たロイヤルスイート組だ。途中で那美達のいると言う九号室をノックしてみたが、既に出た後らしく返答は無かった。
「ところでKKは?」
「それが、流石にディナー代は高過ぎて部費じゃ落ちなかったんだって。で、私が向こうを撮影してる間、まだマシな車内弁当を買って撮影しておいてくれるってさ」
「一人でか?何か寂しいな」
「まあ、シャワーも先に浴びるって言ってたし。他にも夜景の撮影とか、色々やる事あるから」
にしても、あの男子学生の手際には本当に舌を巻く。きちんと段取り良く取材しつつ、ちゃっかり車内販売でディナータイム直後のシャワー券を人数分ゲット。更に仲間達(特に義妹)とも、あっと言う間にこの鉄壁の協力関係を築いている。ただの鉄道オタクにしておくには勿体無い逸材だ。
ついつい。振り返ると、殿の衛兵が手を差し出していた。先行する四人に聞かれないよう、小声で囁きかける。
「さっき回ってきた車内販売で買った、ロイヤルスイート限定の記念品だそうです。どうぞ」
体長約五センチ、純金製の埴輪車掌ストラップを受け取り、私は右手の親指を立てた。「アス、ぐっじょぶ」
「そう思うなら、今回こそ御無体はなさらないで下さいね」
落とさないよう大事に大事にポケットへ仕舞っていたせいで、家臣が何を言ったか全く聞こえなかった。それは向こうもとっくに承知らしく、嘆息して話題を変える。
「しかし、本当にベアトリーチェさんを誘わなくて良かったんですか?金銭的に不自由な学生ならともかく、流石に初日から夫婦揃って弁当と言う事は」
「皆、やけに彼女を気にするのね」
「当たり前ですよ。女王陛下の大切な御友人なんですから」
「しかも数少ない?」
「ええ」
ハッキリ言ってくれる。次の査定で減俸に処してやろうか。
「ふーん―――だってさ、ベアトリーチェ。良かったね、モテモテだよ」「「「「「!!?」」」」」
悪趣味にも気配を消して背後に控える老女へ、五人の視線が一斉に突き刺さる。それらを赤の瞳で一瞥した後、それはちょっと困るわ、これでも一応既婚者なのに、可笑しそうに頬を緩めた。
「クランベリー、そちらの女性は?」
イスラの質問に、黒いナイトドレス姿の本人が片裾を抓んで一礼。
「ベアトリーチェ・フェンと申します。初めまして、苦労性の四天使様」
「えっ!!?ど、どうして私の正体を!?まさか」
私を凝視する保護者を、暗めのルージュを手で押さえながら言う。
「あら、その程度の事、わざわざ訊くまでもありません。私、こう見えて観察眼が良いんです―――クランと同じぐらいに」
「!!?」
今にも卒倒しそうな天使に、異能の友人はゆったりと微笑みかける。
「御安心下さい、誰にも言ったりしません。信じてもらえないでしょうしそれに、バラした所で面白くありませんから」
「は、はあ……」
「あの、つかぬ事を伺いますが、一体何処で分かったんです?」
絶句する本人に代わり、ラントが尋ねる。
「その、翼は隠しているのに」
「途中何度か降車すると分かっている旅に、わざわざそんな新品の靴を履いてくる人間はまずいません。しかもまっさらな衣服で。極め付けはそう、その時折窮屈そうに背中を動かす癖。ここまで情報が出揃っていて分からなかったら、信心深い裁判官さん。とうとう呆けが来たと思って、自己嫌悪で自殺している所だわ」
「!!?」
「余り驚かせるのは止しなよ、ベアトリーチェ……旦那さんは?」
「あら。あなたともあろう者が分からないの?」
む。逆に質問してくるか。こう言う底意地の悪さは、昔とちっとも変わらない。
「―――まさか」わざとにっこり。「揺れているのが『頭』か『脚』か、そこだけ分からなかったから訊いてみただけだよ」「「「??」」」
仲間達の無言の問いを無視し、ほら、入口を塞いだら他のお客さんの迷惑だよ、私は殊更優等生ぶって言ってみせた。




