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流星疾走  作者: 夕霧沙織
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19章 野原の夜宴―――63:25:00




「まだ見えないね、豪華列車」「ああ」「今何処ぐらいだろ?」「うーむ……」 


 筋骨隆々な農夫に肩車された少年は、線路の傍から地平線の向こうを注視しつつそう尋ねた。下にいる父親も額に手を翳し、陽の沈んだ同じ方向を見やった。横並びのそんな親子二組が、上下を交えて口々に相談し合う。

「新聞には六時頃通過って書いてあったよ」

「じゃあ、今は二つ前の駅ぐらいか?」

「セヴォイからノンストップだろ。よく燃料が保つよな」

「ならまだ三十分以上あるぞ?取り敢えず一旦皆の所へ戻ろう」

「「うん!」」

 四人は線路を離れ、草原の先の広い森へと歩いていく。通称“聖樹の森”の手前では、森の反対側に暮らす村人達の宴の真っ最中だ。目的は勿論、宇宙初の豪華寝台列車を一目拝む事。


「あ、聖樹様だ!」「お菓子ちょーだい!!」


 森の奥から遅れて現れた老齢の執事を見つけ、子供達は自ら父の肩を飛び降り駆け出す。歓声を聞きつけ、ピクニックシートの上で座る他の子達も次々立ち上がった。

 両手にバスケットを抱えた樹木の精は、足元に寄る幼子等に優しく呼び掛ける。

「今日は私までお招き頂き、本当にありがとうございます。ああ、そう慌てなくてもちゃんと全員分ありますよ。今日一日掛けて沢山焼きましたから」

 そう言うと、聖樹は自らの活動範囲ギリギリにハンカチを敷く。その上へ正座し、籠に掛けていた白布を取った。

 現れたのはふかふかとした、見るだけでほっぺたが落ちそうなシフォンケーキだ。村産の濃厚な蜂蜜の匂いに誘われ、童心を忘れ切れない大人達もふらふらと彼の傍へ。そして、


「甘ーい!」「うめー!」「あの蜂蜜からこんな美味しいケーキを作るなんて、聖樹様は凄い人ですね!」


 純朴な村人達に因る手放しの賞賛。一身に受けた精霊は一瞬寂しげな眼差しの後、白い口髭の下を柔らかく綻ばせた。




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