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流星疾走  作者: 夕霧沙織
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14章 気の早いゲスト達―――68:30:00




「ここみたいですね」「はい」


 鮮やかな群青色に塗った三角屋根。まだ新しい駅舎に掲げられた看板を見上げた信仰者の言葉に、私は頷いた。

「済みません、ラント。荷物の手配はともかく運搬まで」

「いえ、元々お誘いしたのは本官です。イスラフィール様はどうぞのびのび旅を楽しんで下さい」

 二人分の旅行鞄を両肩に掛けた彼は、そう言って軽々と抱え直す。手伝いたいのは山々だったが、昨日の筋肉痛が残るこの腕では邪魔にしかならないだろう。

「それに四天使様へ荷物を持たせたとあっては、信仰の徒失格ですから」

「あの」

「はい、何ですか?」

「……イスラ、で構いませんよ。クランベリー達もそう呼んでいますし、私の本名は些か長いので」

 それに薄々勘付いていたが、この聖書にも載る名はどうも徒に注目を集めてしまうらしい。この事が原因で万が一正体が見破られれば、目の前の彼にも多大なる迷惑が掛かってしまうだろう。

「い、いいんですか?大父神様より与えられた御名を、そんな」

「別に改名する訳ではありませんよ。無理にとは言いませんが」

「いえ、では―――イスラ様、とこれからはお呼びしますね」

「はい、ありがとうございます」

 頬を赤くした敬虔な信徒に礼を言い、横並びで駅舎内へ。

 ストーブが中央に置かれ、暖房の効いた待合室。そこはカメラを手にした人々に因って、既に座席の半分近くが埋まっていた。報道関係者と言うのは―――ああ、新聞や雑誌の。確かに、彼等はこの車両の写真を沢山撮っていましたね。

 切符売り場と書かれた窓口へラントが行き、駅員と二、三言葉を交わしてから戻って来る。

「列車は既に到着しているそうです。もう乗り込みますか?まだ出発までかなり早いですけど」

「その荷物だけ先に部屋へ下ろさせてもらっては?」

 パンパンに詰まった二つの旅行鞄を指差す。

「成程。では一度乗り込んで置いてから、発車まで駅舎前にあったカフェで少し休憩しましょう」

 プランに従い私達は外へ出、線路を二度跨いで東端の七番乗り場へ向かう。

「?まだ整備中でしょうか?」

 車両下にいる作業服姿の複数の男性を指差し、窓口では乗車OKと言っていたんですが、首を傾げる。

「きっと長い旅なので、最終の点検しているんですよ。取り敢えず乗車口で尋ねてみましょう」

「そうですね―――わぁ!」

 車体に描かれた本物さながらの星空に、双方目を奪われる。何と見事な絵だろう!規模こそ小さいながら、主がかつて起こされた天地創造の奇跡にも匹敵する出来栄えだった。

 そうして暫し感動していると、目的の入口から制服姿の男性が降りてきた。ラントの抱えた鞄を見、背筋を伸ばし敬礼。

「早いですねお客様、一番乗りですよ。チケットを拝見しても宜しいですか?」

「はい」

 列車と同色の二枚の紙片を確認し、彼は眉を上げる。

「ほう!あなたがあの副聖王様の玄孫の……失礼、余り似ていらっしゃいませんね」

「よく言われます。でもまぁ、三世代も前なら普通ですよ」

「成程。あの方は矢張りお仕事で?」

「いえ。―――実はここだけの話、曽祖父は汽車が大の苦手でして。他の乗り物なら問題無いんですが、薬を飲んでも酔うとか。勿論、お招き頂いた以上、代理はしっかり務めさせて頂きます。どうか安心して下さい」

「ああ、御丁寧にどうも」

 判を押したチケットを返還し、ピシッ!彼は敬礼した。


「―――ではラント・アメリア様、そしてイスラ・アメリア様。ようこそ本列車、トワイライト・スターレイン号へ。私は車掌のゼト・ビーツェ。これから四日間、どうか宜しくお願いします」


 紳士的に握手を交わし、私達は早速車内へ乗り込む。入口横には何とも言えないデザインをした、体長一メートル程のぬいぐるみが置いてあった。制服を着ていると言う事は、彼も一応乗務員なのだろうか?

「ああ。紹介しましょう。こちらは埴輪車掌」キャラクターと同じ敬礼姿勢を取る。「就任以来無遅刻無欠勤、我々の尊敬する大先輩です」

 誇らしげな説明の後、何故か溜息を吐く。

「全く……こんな特別な日にまで寝坊する副車掌にも、是非見習って欲しい物です」

「え?」

「いえ、御安心下さい」咳払い。「仮令現れなくても、運行やサービスには全く支障ありません。寧ろ清々……ああ、済みません。お客様方の前で」

 どうやら歓迎されない人物が、未だに出勤していないようだ。下界の職場事情は生憎よく分からないが、流石にゲストである自分達より後に来るようでは拙いのではなかろうか。

「お泊りの七号車一号室は、ここを右に行った突き当たりです。とにかく真っ直ぐ廊下を進んで行って下さい。鍵はこちらになります」

「ありがとうございます」

 受け取ったキーはタグまで輝く金色をしていた。ただ、純金にしては軽い。どうやら金箔を貼ったレプリカのようだ。

「出発まで部屋へ荷物を置いて、外に出ていても構いませんか?」

「ええ。但し、くれぐれもあなた方まで遅れないようにお願いします」

「勿論。では、また」

 鍵を握り締めた私は、連れの先導で狭い通路をひたすら進み始める。

「ところでラント。イスラ・アメリアと言うのは」

「重ね重ね済みません、了解を得る前に勝手に改名してしまって。乗車手続きにどうしても身元が必要だったので、本官の従兄弟と言う事にしたんです」

「謝らないで下さい。何から何まで気を遣って頂いてありがとう、ラント。私からも何か、返礼が出来るといいのですが」

 こう言う場合、人間なら旅費を尋ねて返還するのだろうか?いや。彼の文字通り献身は、とても金銭に換えられるような物ではない。 

「そんな!?……じゃ、じゃあ、夜に少しお付き合いして下さいますか?御言葉に対する四天使様の御意見を是非拝聴したいです」

「はい。ですが、旅行にまで聖書の持参を?」

 クランベリーではないが、バカンスにまで持ち込むとは相当な聖書馬鹿だ。それに彼程聡明なら、数日身を離す程度で得た知恵が消えるとも思えない。

「ハンディ版ですけどね」前方を指差す。「ああ、やっと着きました。あそこが本官達の泊まる部屋みたいです」

 都合五両を移動した終点。そこには彼の言う通り、「一号室」の金プレートの掲げられた、艶々と輝く赤褐色の扉が見えた。

「一体どんな部屋でしょうか?楽しみですね」

「ええ。開けますよ」

 そう言って、キーを挿し込もうとした瞬間。バタンッ!内側から勢い良く開く。吃驚仰天して後方へ倒れかけた私を、危うい所を連れが支えてくれた。


「何か見つけたんですか!?―――って、イスラさん?それに先輩まで!?」「宝君!?何故、君が本官達の部屋に!!?」



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