12章 絶景―――65:50:00
「「うわぁ……!」」
感嘆の間にも後方へ流れていく、地平線まで続く線路と草原。少し視線を上げると、遥か向こうには白銀の山脈と掛かった雲が。そして上には抜けるような青い空が広がっていた。
パシャパシャッ!展望窓に連続フラッシュが焚かれる中、部屋の主が硝子コップ三つとワイングラス、それにシャンパンのボトルを持って来た。
「ドリンクサービスとは気が利くね」
「違いますよ。イスラ様が僅かもアルコールを口に出来ないので、取材協力する代わりに三人で責任持って飲んで下さい」
「成程。だから烏龍茶」
トクトクトク……均等に注がれる琥珀色の液体。鼻を近付けると甘ったるい匂いがした。
「これがロイヤルスイートだけに用意されていると言う、噂のウェルカムドリンクですね!」パシャパシャッ!「ありがとうございます、アメリアさん。では、遠慮無く御相伴に預からせて頂きますね!」
ノンアルの保護者も加わり、私達五人は各々のドリンクを掲げた。
「ではイスラ様、乾杯の音頭をお願いします」
ベッドの端に掛けた裁判官が、向かいに座った四天使に依頼する。
「分かりました」
意外極まりないが、イスラは聖書内で旅の導き手としても書かれている。田舎では道祖神的に奉ってある所もあるぐらいだ。詐欺もいい所である。
一回フリで写真撮影した後、改めて本番へ。
「―――では、これから最終日までの全員の旅の安全を祈って。乾杯!」「「「「乾杯!」」」」キィン、キイィン!
一口含むと炭酸のシュワシュワと甘み、差分程度のアルコールを感じた。決して美味しい物ではないが、サービス(それも他人の部屋)だから文句は言えないか。
「へえ。初めて飲んだけど、シャンパンってこんな味なんだ」
興味深そうに舐めつつ、杯を傾ける夢使い。向かいの学生は半分飲み干した所で鞄をごそごそし、良かったらどうぞ、レーズン入りソフトクッキーの袋を開けた。ベッド組が礼を言い、早速腕を伸ばす。
「くーん」
「また太るから駄目」
尻尾と耳をしょんぼり垂らしたラフ・コリーは放っておき、私も一個貰う。ランチが早かったので、丁度軽く小腹が空いていた所だ。しっとりして美味しい。
「でも吃驚した。ラントって連合政府の人だったんだね」
「違いますよ。本官の曽祖父が副聖王をやっているのですが、多忙で四日もスケジュールを空けられないそうで。それで代理でスピーチを引き受けてくれと、チケットを渡されて」
「スピーチ?」
「今夜のディナーセレモニーで喋る予定です。大丈夫。原稿は預かっているし、仕事の合間にきちんと練習しましたから」
相変わらず無駄に準備万端なコーヒー中毒者だ。まぁラントならしょっちゅう公衆の面前で喋っているし、アガる心配は無いだろう。
そう思っていると、グラスを空けた玄孫が何故かこちらへ視線を向けた。
「何?もしかして本当に惚れちゃった?」
「冗談は止めて下さい!イスラ様、彼女のいつもの戯言ですからね!!本気にしてはいけませんよ!?」
そこでムキになると、今度は何か別の意味で怪しくなるんだけどなぁ。
「?ええ、分かっていますよラント。そう慌てなくても大丈夫です」
「済みません、取り乱してしまって……ああ、そうだ。曽祖父があなたの事を言っていましたよ。煮ても焼いても食えない娘だと。一体何時政府館へ行ったんです?」
「お褒めの言葉どうも。―――ちょっと野暮用でね、二回程資料室でお会いしたの」クッキーを口一杯に頬張った義妹の様子を観察しつつ言う。
裁判官はやれやれと頭を振り、今度見つけたら反省文を書かせると言っていましたよ?余りあの人に睨まれるような事はしないで下さいね、五寸釘を刺した。
「(もぐもぐ、ごくん)あはは、くーちゃんにそれを求めるのは酷だよラント。でも、どうしてイスラさんまで一緒に?」
途端、裁判官は表情を一変。照れ臭そうに頬を掻き、敬愛の対象を見やる。
「以前のスキー旅行が散々な結果だったので、その謝罪にとお誘いしたんです。知っての通り、折角のペアチケットでも本官が使える相手となると……あ、いえ!仮令ガールフレンドがいたとしても、真っ先にイスラ様へお話していましたよ!?」
だから変に弁解しない!
「……あの、ちょっといいですか?」
それまで無言で様子を窺っていた部外者が挙手する。
「あ、ゴメンね内輪話ばっかりで。どうぞ、KK」
「いえ。クランさん達とこちらのお二人は、一体どんな御関係なのかと思って」
「ああ、そっか。えっと、イスラはくーちゃんの保護者なの。くーちゃんのお兄さんの部下で、頼まれて時々様子を見に来てる。で、ラントは」
「最近は聖書より、螺子の一本抜けた神父様の方が好きな不良教徒」
「こら!?」
「神父?ですが私は」
「だって信仰を広めたいんでしょ?なら神父様で充分意味は通じるじゃない」
今にも噛み付いてきそうな信仰者をバックにぽん、と手を打つ当人。
「成程、名案です。では次から職業を尋ねられたらそう答えましょう」
「しましょう、って……結局どう言う繋がりなんです?」
「一応友達かな」
「アス君達やセミアさんはともかく、少なくともあなたとは違います」
「きゅーん」
「ボビーも入れてあげてよラント。来たらいっつも可愛がってるじゃない」
「つまり、人の言葉で表すと……腐れ縁、が妥当ではないかと」
見事にバラバラな五種の返答に、ありがとうございます、何となく分かりました、若き鉄道マニアは深く深く納得した。




