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流星疾走  作者: 夕霧沙織
13/82

12章 絶景―――65:50:00



「「うわぁ……!」」


 感嘆の間にも後方へ流れていく、地平線まで続く線路と草原。少し視線を上げると、遥か向こうには白銀の山脈と掛かった雲が。そして上には抜けるような青い空が広がっていた。

 パシャパシャッ!展望窓に連続フラッシュが焚かれる中、部屋の主が硝子コップ三つとワイングラス、それにシャンパンのボトルを持って来た。

「ドリンクサービスとは気が利くね」

「違いますよ。イスラ様が僅かもアルコールを口に出来ないので、取材協力する代わりに三人で責任持って飲んで下さい」

「成程。だから烏龍茶」

 トクトクトク……均等に注がれる琥珀色の液体。鼻を近付けると甘ったるい匂いがした。

「これがロイヤルスイートだけに用意されていると言う、噂のウェルカムドリンクですね!」パシャパシャッ!「ありがとうございます、アメリアさん。では、遠慮無く御相伴に預からせて頂きますね!」

 ノンアルの保護者も加わり、私達五人は各々のドリンクを掲げた。

「ではイスラ様、乾杯の音頭をお願いします」

 ベッドの端に掛けた裁判官が、向かいに座った四天使に依頼する。

「分かりました」

 意外極まりないが、イスラは聖書内で旅の導き手としても書かれている。田舎では道祖神的に奉ってある所もあるぐらいだ。詐欺もいい所である。

 一回フリで写真撮影した後、改めて本番へ。


「―――では、これから最終日までの全員の旅の安全を祈って。乾杯!」「「「「乾杯!」」」」キィン、キイィン!


 一口含むと炭酸のシュワシュワと甘み、差分程度のアルコールを感じた。決して美味しい物ではないが、サービス(それも他人の部屋)だから文句は言えないか。

「へえ。初めて飲んだけど、シャンパンってこんな味なんだ」

 興味深そうに舐めつつ、杯を傾ける夢使い。向かいの学生は半分飲み干した所で鞄をごそごそし、良かったらどうぞ、レーズン入りソフトクッキーの袋を開けた。ベッド組が礼を言い、早速腕を伸ばす。

「くーん」

「また太るから駄目」

 尻尾と耳をしょんぼり垂らしたラフ・コリーは放っておき、私も一個貰う。ランチが早かったので、丁度軽く小腹が空いていた所だ。しっとりして美味しい。

「でも吃驚した。ラントって連合政府の人だったんだね」

「違いますよ。本官の曽祖父が副聖王をやっているのですが、多忙で四日もスケジュールを空けられないそうで。それで代理でスピーチを引き受けてくれと、チケットを渡されて」

「スピーチ?」

「今夜のディナーセレモニーで喋る予定です。大丈夫。原稿は預かっているし、仕事の合間にきちんと練習しましたから」

 相変わらず無駄に準備万端なコーヒー中毒者だ。まぁラントならしょっちゅう公衆の面前で喋っているし、アガる心配は無いだろう。

 そう思っていると、グラスを空けた玄孫が何故かこちらへ視線を向けた。

「何?もしかして本当に惚れちゃった?」

「冗談は止めて下さい!イスラ様、彼女のいつもの戯言ですからね!!本気にしてはいけませんよ!?」

 そこでムキになると、今度は何か別の意味で怪しくなるんだけどなぁ。

「?ええ、分かっていますよラント。そう慌てなくても大丈夫です」

「済みません、取り乱してしまって……ああ、そうだ。曽祖父があなたの事を言っていましたよ。煮ても焼いても食えない娘だと。一体何時政府館へ行ったんです?」

「お褒めの言葉どうも。―――ちょっと野暮用でね、二回程資料室でお会いしたの」クッキーを口一杯に頬張った義妹の様子を観察しつつ言う。

 裁判官はやれやれと頭を振り、今度見つけたら反省文を書かせると言っていましたよ?余りあの人に睨まれるような事はしないで下さいね、五寸釘を刺した。

「(もぐもぐ、ごくん)あはは、くーちゃんにそれを求めるのは酷だよラント。でも、どうしてイスラさんまで一緒に?」

 途端、裁判官は表情を一変。照れ臭そうに頬を掻き、敬愛の対象を見やる。

「以前のスキー旅行が散々な結果だったので、その謝罪にとお誘いしたんです。知っての通り、折角のペアチケットでも本官が使える相手となると……あ、いえ!仮令ガールフレンドがいたとしても、真っ先にイスラ様へお話していましたよ!?」

 だから変に弁解しない!

「……あの、ちょっといいですか?」

 それまで無言で様子を窺っていた部外者が挙手する。

「あ、ゴメンね内輪話ばっかりで。どうぞ、KK」

「いえ。クランさん達とこちらのお二人は、一体どんな御関係なのかと思って」

「ああ、そっか。えっと、イスラはくーちゃんの保護者なの。くーちゃんのお兄さんの部下で、頼まれて時々様子を見に来てる。で、ラントは」

「最近は聖書より、螺子の一本抜けた神父様の方が好きな不良教徒」

「こら!?」

「神父?ですが私は」

「だって信仰を広めたいんでしょ?なら神父様で充分意味は通じるじゃない」

 今にも噛み付いてきそうな信仰者をバックにぽん、と手を打つ当人。

「成程、名案です。では次から職業を尋ねられたらそう答えましょう」

「しましょう、って……結局どう言う繋がりなんです?」


「一応友達かな」

「アス君達やセミアさんはともかく、少なくともあなたとは違います」

「きゅーん」

「ボビーも入れてあげてよラント。来たらいっつも可愛がってるじゃない」

「つまり、人の言葉で表すと……腐れ縁、が妥当ではないかと」


 見事にバラバラな五種の返答に、ありがとうございます、何となく分かりました、若き鉄道マニアは深く深く納得した。



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