10章 スペシャルゲスト―――66:50:00
「変わったお母さんだったね。娘さんの方は可愛かったのに」
自重しない義妹の感想に、あの人がセレン・バービー社長夫人ですよ、KKが補足説明を入れる。
「バービー紡績会社と言えば、“碧の星”ではトップクラスの大企業です。あの龍商会ビルにもテナントを置いているとか」
「じゃあ株主さん達と同じ、スポンサー枠乗車?―――あ、くーちゃん!ここが三号室みたいだよ。ベアトリーチェさんいるかな?もしもーし!」
プレートの掛かったドアをコンコン。だが返事は無い。
「留守みたいだね。六号車は全部スイートだから、いたらちょっと撮影させてもらおうと思ってたのに。ま、帰りにもう一回訪ねてみようよ」
「お知り合いですか?」
学生が尋ねる。
「私の古い友達だよ。旦那さんと二人で旅行中なの」
「へえ。その方も北斗社の関係者とか?」
「多分違うと思うけど。因みに事情通君、そっちの真ん中の部屋にはどんな人が?」
老齢の夫婦に、小さい子供連れの母親。間に挟まれた客が神経質な人物でない事を祈りつつ尋ねる。
「えっと……ああ、きっとあの手品師の男性ですね。先程セミアさんも仰いましたが、スイートルームはこの六号車にしか無いので」
そこで男子学生は持参していた車両地図を広げ、懇切丁寧に説明を開始する。
要約すると、トワイライト・スターレイン号は全部で七車両編成だ。進行方向、つまり前から一号車は食堂とキッチン。乗車口のある二号車はカフェバー。三号車と私達の部屋のある五号車はツインルームで、三つあるランクの内の一番下。間の四号車には共同シャワーとトイレ、それに乗務員用休憩室兼医務室がある。続くこの六号車は全室スイートルームで真ん中のランク。そして、
「七号車は、ロイヤルスイートルームが二部屋。僕達が目指すのはその内の奥側、一号室の方です」
「連合政府って事は、那美の上司の人?」
セミアが(一応)知人の暴力至上主義アルバイターの名前を出す。
「うーん。邪魔させてもらうんだし、お菓子とか持って来た方が良かったかな?」
「それなら多分大丈夫だよ。―――はい、七号車到達っと」
「くーん」
「よし、今度はちゃんと避けられた」
ガッツポーズの義妹は放っておいて、流石は特別中の特別車。廊下の全面には深紅の絨毯が敷かれ、靴が沈み込む程ふっかふかだ。
そして、その終着点。目的の扉の前には、不本意ながらすっかり顔見知りの裁判官が困惑し切って立っていた。やれやれ、やっぱりそうなるか。




