9章 謎の母子―――66:40:00
「あ、早速第一乗客発見!」
通り道の六号車へ入ると、丁度手前の部屋に親子が入っていく所だった。母親は三十歳前後、娘は十歳程度か。
「くーん❤」
子供好きなボビーが、早速てこてこと二人に近付く。と、その気配に気付いた女性が飛び退いた。
「い、犬!?一体何処から入ってきたの!!?」
「くーんくーん❤」
愛情たっぷりに鳴いてみるも、どうやら女性は犬に嫌な思い出があるようだ。シッシッ!必死で追い払おうと手を振る。
「御免なさい、お姉さん。ボビーは私の飼い犬なの」
そう言って長毛に覆われた首根っこを掴み、めっ!でしょボビー、注意して後ろへ下がらせた。尚も警戒する母親を、一足先に入室した少女が怖々と見つめている……ふむ。
「大丈夫だよ、お母さん」義妹もフォローに回ってくれる。「ラフ・コリーは元々温厚な犬種だし、ボビーはしつけも行き届いているから噛んだりしないよ」
彼女の説得に、流石に大人気ないと気付いたのだろう。腕を下ろし、小さく頭を下げる。
「あ、ああ、そう……取り乱して申し訳無かったわ。昔、近所によく吠える犬がいて、それで」
「ふぅん。―――ねえ。こう言っているけど、あなたは触ってみる?」
突然話を向けられ、少女の身体がビクッ!痙攣する。そして次の瞬間、母親は一層血相を変えた。
「い、いえ!この子は動物アレルギーで、ねえミアちゃん!?」
「う、うん……」
大袈裟に頷きつつも、無言の視線で以って私に訴えかけた……成程。となると、
「あ。私、ちょっとトイレ行ってくるね」
「え?」
「だって駅に着いたのが出発時刻ギリギリだったし、行く暇無かったんだもん。と言う訳で中座させてもらうね」
そのまま五分程場を離れ、無事帰還。幸い、三人はまだ五号室の前で話し込んでいた。相変わらず女性の警戒心は高かったが、旅先ともあって無下に追い返すのもあれだと考え直してくれた様子。
「早かったね」
「そう?あ、そうだミアちゃん」ポイッ。「きゃっ!」
どうにかキャッチした蜂蜜飴を見つめる少女へ、私は口の端を上げて告げる。
「餞別にあげる。私はクランベリー・マクウェル。五号車の七号室にいるから、気が向いたらおいで。一緒にトランプでもして遊ぼうよ。例えば、そうね―――ダウト(疑惑)、とか。ルール知ってる?」
「!あ、うん……分かるよクラン、お姉ちゃん」
予想通り賢い彼女はすぐに意図を察し、ようやく蕾が綻ぶような笑顔を見せてくれた。
「手加減してあげるんだよ、くーちゃん」
「勿論。手持ちカード倍のハンデでどう?」
「うーん。それなら一応OKかな」
義妹の承諾も得た所で、そろそろお暇するとしよう。私は二人に一礼した。
「じゃ、部屋の前で騒いで御免ね。二人共、良い旅を」
そう挨拶し、私は連れ達に目配せ。足早に五号室の前を後にした。




